―法人会の税制改正提言―
中小企業に対する交際費課税特例措置の2年延長と
消費税の確定申告書提出期限の1ヶ月延長が実現!

政府は、令和元年12月20日に令和2年度税制改正大綱を閣議決定しました。
法人会が提言していた、交際費課税の特例措置及び少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の期限が2年延長され、軽減税率制度が導入された消費税の確定申告書の提出期限についても、1ヶ月の延長などが実現しました。主な内容をお知らせします。

法人税関係

■オープンイノベーションに係る措置の創設
青色申告書を提出し、自らの経営資源以外の経営資源を活用し高い生産性が見込まれる事業を行う法人が、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に、経済産業大臣の証明を受けた一定の企業の株式を取得し所有している場合に、取得価額の25%を限度として損金算入できる制度です。
保有しているだけで取得価額の25%相当を損金算入できるという点が特徴ですが、売却した場合や配当を受けた場合に、取崩し事由となるので注意が必要です。中小企業者は1,000万円以上の払込から、中小企業者以外は1億円以上の払込から、外国法人への投資の場合は5億円以上の払込から、となっています。

■5G(第5世代移動通信システム)投資促進税制の創設
 青色申告法人で、特定高度情報通信等システム導入事業者に該当するものが、特定高度情報通信等システムの普及の促進に関する法律の施行日から令和4年3月31日までの間に、特定高度情報通信用認定等設備の取得をして、事業の用に供した場合には、その取得価額の30%の特別償却または15%の税額控除が選択できる制度です。

■連結納税制度の見直し
 連結納税制度は、連結親法人と子法人など企業グループの損益を通算できるメリットがある制度です。そのメリットはそのままに、グループ通算制度として、その仕組みが令和4年4月1日以後開始する事業年度から変更になります。
 従来は、親法人が子法人の所得も含めて代表して申告し、修正申告などの際に必ず親法人が行う必要があるため親法人に負担のかかる制度でした。グループ通算制度では、グループ法人間で損益通算をした上で、各法人が法人税の申告を行う仕組みとなります。

■交際費税制
 交際費の損金不算入制度について、その適用期限が2年延長されるとともに、中小法人が年間800万円の交際費まで損金算入できる制度についても2年延長されます。
 接待飲食費の50%について損金算入を認める制度も2年延長されますが、資本金等の額が100億円を超える法人については、接待飲食費の50%について損金算入を認める制度から除外され、適用できないこととなります。

■企業版ふるさと納税の拡充
 認定地方公共団体の寄附活用事業に関連する寄附をした場合の法人税額の特別控除について、適用期限が5年延長されます。また、従来の企業版ふるさと納税では、寄付金が損金算入されることに加え税額控除で実質40%の会社負担であったのが、税額控除の限度額が大きくなり会社負担は10%となります。

■投資要件の厳格化
 大企業において、研究開発税制を適用する際に、国内設備投資額が当期償却費総額の10%を超えることとする要件は、30%を超えることとする要件に厳格化されます。また、大企業の給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の税額控除について、適用年度の国内設備投資額が当期償却費の90%以上とする要件について、95%以上へと厳格化されます。
 いずれも、設備投資を積極的に行わない場合は、税の優遇を受けられないとする取扱いで、積極的な投資への後押しする趣旨の改正です。

■少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置
 中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を取得などして事業の用に供した場合に、一定の要件のもとに、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入できる制度が、2年延長されます。

所得税・住民税関係

■NISA制度の改正
 未成年者が利用可能なジュニアNISAは、口座開設可能期間が予定通り令和5年12月31日までで、終了されることになりましたが、つみたてNISAの勘定設定期間は、令和24年12月31日まで、延期されることになりました。
 一般NISAについては、令和5年12月31日までで、年間120万円まで投資できる制度は終了します。令和6年以降は@年間20万円までの投資信託への投資枠と、A年間102万円までの上場株式への投資枠の2階建ての構造になり、Aの上場株式への投資を行うためには、その前提として@の投資信託への投資を行うことが必要となります。投資信託への投資枠については、その後つみたてNISAへ移行することが可能となります。

■未婚のひとり親に対する所得控除
 未婚のひとり親の場合でも、@生計を一にする総所得金額等の合計額が48万円以下の子がいる場合で、A親の合計所得額が500万円以下である場合は、35万円の所得控除が認められることになります。
 また、寡婦(寡夫)控除について、未婚のひとり親に対する所得控除と要件を同じくして、控除額が35万円に引き上げられます。従来の特例は廃止されることになりました。いずれも、令和2年分の所得税から適用されます。

■国外中古建物の不動産所得に係る損益通算の特例の創設
 個人が令和3年以後、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合に、国外不動産所得の損失がある場合には、国外中古建物の償却費に相当する部分は生じなかったものとみなされます。
 国外の中古建物を購入して、中古建物に関する償却費を計上することで、赤字を作り、他の所得と通算することによる節税防止策です。

■低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除制度の創設
 個人が、都市計画区域内にある低未利用土地又はその上に存する権利について、市区町村の長による確認がなされたもので、取得日から売却したその年の1月1日に所有期間が5年を超えるものを譲渡した場合に、長期譲渡所得の金額から100万円を控除できる制度が創設されます。なお、譲渡対価の額は500万円以下であることが条件となります。
 土地基本法等の一部を改正する法律の施行日か令和2年7月1日のいずれか遅い日から、令和4年12月31日までの特例です。

消費税関係

■法人に係る消費税の申告期限の延長
 法人税の確定申告書の提出期限の延長特例の適用を受ける法人が、消費税の確定申告書の提出期限を延長する旨の届出書を提出することで、その提出した日の属する事業年度以後の各事業年度の末日の属する課税期間に係る消費税の確定申告書の提出期限が1ヶ月延長されます。
 この改正は、令和3年3月31日以後に終了する事業年度の末日の属する課税期間から適用されます。申告期限の延長に伴い、延長された期間の消費税の納付については、その延長された期間に係る利子税を納付することになります。
 法人税については、申告期限の延長が認められていましたが、消費税については延長の特例が存在しないため、先行して消費税の確定申告をするという難しいスケジュールが必要とされていました。法人会を含めた各界からの要望により改正が現実しました。

■居住用賃貸建物の取得に係る消費税の仕入税額控除制度
 居住用賃貸建物として利用される可能性のある建物で、取得価額1,000万円以上のものについては、仕入税額控除の適用が認められないこととなります。ただし、取得の年度から3年間の間に住宅の貸付以外の貸付を行った場合や、譲渡した場合には、調整計算が行われ、課税売上に対応する部分については、税額控除が受けられる仕組みとなります。
 従来の制度では、いったん課税仕入を認めた上で、課税売上割合に変動があるような場合に調整される仕組みでした。ところが、居住用賃貸建物のように本来は非課税売上のために取得する場合でも、金地金の売買などにより課税売上割合を意図的に高めることで、全額控除できてしまうという問題点があったため、それを防止する趣旨での改正となりました。
 令和2年10月1日以後に仕入れを行った居住用賃貸建物から適用されます。ただし、令和2年3月31日までに契約している場合は、この制度は適用とならず、従来どおりの取扱いとなります。

■住宅の貸付けに係る契約において貸付けの用途が明らかでない場合の取扱い
 住宅の貸付に係る契約で、貸付けの用途が明らかでない場合であっても、その貸付けの用に供する建物の状況等から居住の用に供することが明らかな貸付けについては、消費税は非課税となります。
 従来は、契約書で居住用であることが明らかである場合のみ非課税として取り扱われてきましたが、契約上明確でない場合は、実態により判断することになりました。居住用賃貸建物に関する特例を外すために、居住用と明記しないケースなどに対応したものと考えられます。令和2年4月1日以後に行われる貸付について、適用されます。

■高額特定資産の取得をした場合の特例の見直し
 高額特定資産を取得した場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度への適用制限をする措置の対象に、高額特定資産である棚卸資産が納税義務の免除を受けないこととなった場合の棚卸資産に係る消費税額の調整措置の適用を受けた場合も加えられることになります。令和2年4月1日以後に、棚卸資産の調整を受けた場合に適用されます。

国際課税

■子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避への対応
 特定関係子法人から受ける配当等が株式等の簿価の10%を超える場合に、益金不算入相当額を、その株式等の簿価から引き下げることになりました。
 受取配当金の益金不算入を利用した上で、譲渡損を計上するスキームが利用できなくなります。

その他

■振替納税の通知依頼及びダイレクト納付の利用届出の電子化
 振替納税の通知依頼及びダイレクト納付の利用届出について、e-Taxにより申請を行うことを可能とするとともに、その際に電子署名及び電子証明書の送信が不要となります。令和3年1月1日以後の申請から適用できます。

■納税地の異動があった場合の振替納税手続の簡素化
 振替納税を利用している個人が、他の税務署管内へ異動した場合に、納税地の異動届出書に、異動後も従前の金融機関から振替納税を行う旨を記載したときは、異動後も継続して振替納税が利用可能となります。令和3年1月1日以後に提出する、異動届出書から適用されます。

 

令和元年12月20日に閻議決定された「令和2年度税制改正の大綱」における個人所得課税の主な改正事項を抜粋いたしました。法案成立前の内容であることにご留意いただいた上で、 今後の事務の参考にお役立てください。
(財務省ホームページ「令和2年度税制改正(案)のポイント」より)

1 未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し(案)

これまで、同じひとり親であっても、離婚・死別であれば寡婦(夫)控除が適用されるのに対し、未婚の場合は適用されず、婚姻歴の有無によって控除の適用が異なっていました。また、男性のひとり親と女性のひとり親で寡婦(夫)控除の額が違うなど、男女の間でも扱いが異なっていました。 そこで、今回の改正では、全てのひとり親家庭に対して公平な税制支援を行う観点から、

@ 婚姻歴や性別にかかわらす、生計を同じとする子(総所得金額等が48万円以下)を有する単身者について、同一の「ひとり親控除」(控除額35万円)を適用することとします。

A 上記以外の寡婦については、引き続き寡婦控除として、控除額27万円を適用することとし、子以外の扶養親族を持つ雰婦についても、男性の寡夫と同様の所得制限(所得500万円(年収678万円)以下)を設けることとしました。

*ひとり親控除、寡婦控除のいすれについても、住民票の続柄に「夫(未届)」「妻(未届)」の記載がある者は対象外とします。

2 国外居住親族に係る扶養控除の見直し(案)

所得要件(48万円未満)が国内源泉所得のみで判定されるために、国外で一定以上の所得を稼得している国外居住親族でも扶養控除の対象にされているとの指摘を踏まえ、令和5年分以後の所得税につき、留学生や障害者、送金関係書類において38万円以上の送金等が確認できる者を除く30歳以上 70歳未満の成人について、扶養控除の対象にしないこととします。

 

 

 

 

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