賃金を下げるには
乾いた雑巾をしぼりだすかのような経費削減を実行したのに経営が苦しい。もう、賃金を下げるしか方法はないんだけど・・・

難しい「不利益変更」の判断
 昨今、賃金の減額、あるいは成果主義、変動給制度の導入にともなった労働裁判が激増しています。一般には「労働条件の不利益変更」 といわれているものですが、こうした不利益変更については法令に明文の規定がなく、裁判所の判断によるしかありません。

わかりづらい裁判所の基準
 裁判所の判断は「労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成または変更については(中略)   高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずる」ものとしています。
具体的な基準
(1) 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
(2) 使用者側の変更の必要性の内容・程度
(3) 変更後の就業規則の内容自体の相当性
(4) 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
(5) 労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応
(6) 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断
 判決文特有のわかりづらい文章ですが、実際には事案ごとに「ケース・バイ・ケース」で個別に判断するため、

不利益変更が成立する要件はさらにわかりづらいものになっています。(みちのく銀行事件平成12年9月7日最高裁判決などより)


実際の裁判ではどうなっているか
 ここで賃金制度の改定に伴った不利益変更について、裁判所が実際に判断したケースを見てみましょう。

 一つは不利益変更が否認されたケースです。この事案について、変動給制度を導入した制度の改定そのものは「業績の悪化に伴いこの制度を導入する経営上の必要性があったことは肯定できる」としたものの、「多くの従業員が実際に不利益を受けることとなった」にもかかわらず、「代償措置その他関連する労働条件の改善がされておらず(中略)現に雇用されている従業員が以後の安定した雇用の確保のためにはそのような不利益を受けてもやむを得ない変更であると納得できるものである等(中略)の合理的な内容と認めることもできない」として否認されたのでした。(アーク証券事件平成8年12月11日東京地裁決定)

 これに対し、同じような変動給制度を導入し、認容されたケースもあります。この事案において、制度の導入にともない「評価が低い者は不利益となるが、普通程度(筆者注:5段階評価におけるB以上)の評価の者には(賃金減額分の)補償制度もあり、八割程度の従業員は賃金が増額している」点を指摘し、さらに「(2年連続で)赤字経営となり、収支改善のための措置が必要となったことで、賃金制度改定の高度の必要性があった」との判断を下しました。(ハクスイテック事件平成12年2月28日大阪地裁判決)


不利益変更の判断として
 この二つの判決から、賃金制度を改定するときには先に述べた判断基準のうち、「(1)就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度」、「(2)使用者側の変更の必要性の内容・程度」については相対的に判断され、不利益の程度が大きければ、会社にとっての変更の必要性もより大きなものでなければならないことが読み取れます。さらに、「(3)代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況」が重視される、つまり、少しでも
労働者の不利益を緩和する努力が必要であることも読み取れます。
 以上の点から、成果主義などの変動賃金制度を導入するときは、少しづつ賃金水準が下がっていくような経過措置を設ける必要があるといえるでしょう。
 いずれも地裁レベルの判断でありこれだけでは断定はできませんが、複雑で判断が難しい賃金改定の際の目安の一つになると思います。

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