電子透かし 

 デジタルデータは完全なコピーが容易にできることから、著作権を無視した不正コピーが危惧されている。これを抑止する方法として電子透かし技術を用 いることが考えられている。これは画像や音声などの著作物としてのデータに、 著作者などの情報を通常はそれとは認識できないように埋め込む技術である。
 
電子透かし技術とは、画像や音声データを別の形式のデータに変換して、暗号化された情報を組み込み、再び元の画像や音声に戻したもの。コピーしたり編集しても証拠が残る仕組みだ。 
 

1. 電子透かしの特徴

 電子透かしとは、画像データや音声データなどのマルチメディアデータに、その冗長性を利用して他の情報を埋め込み、不可視の状態で隠し持たせたもの。
 最近では、映像や音声などのデジタルコンテンツ化が進み、インターネットやデジタル衛星放送を介してのやり取りが一般化してきたが、これらはコピーが容易なため、著作権の保護という観点から、電子透かし技術に注目が集まってきている。
 つまり、デジタル作品の著作者情報等を電子透かしとして作品に埋め込み、著作権管理を行うために利用が見込まれている。

 欧米では、その歴史的背景もあり、通信技術の一分野として、軍事関連の機関を中心に研究が行われてきた。
 日本国内では認知度が低く研究は盛んではないが、防衛大学校の松井甲子雄教授が、この分野の第一人者として、電子透かしという言葉が、Steganograpyの説明として普及する以前から、画像深層暗号という用語を用いて、この概念を説明してきた。
 一般的な暗号技術をCryptographyと呼ぶのに対し、Steganograpy(ステカノグラフィ)という用語を用いる。
 CryptographyとSteganograpyの違いは、一般に暗号と訳されるCryptographyを用いた場合、元の情報は可読なのに対し、暗号化を施した後にはその情報は全く理解不能な文字列(もしくはその他の情報)に変換されてしまう。
 そのため、その情報を入手したものは、その情報が暗号化されたことを知覚し、悪意を持った受け手は暗号化の解除を行うためにさまざまな手段を講じるかもしれない。たとえ、DESやRSAといった、非常に安全性の高い暗号化技術も、完璧ではなく、解析されては、暗号鍵の桁数を増やしていくといういたちごっこが続いている。
 これに対しSteganograpyでは、元の情報に暗号化を施しても、その情報はまた別の意味ある文章や画像として知覚されるため、情報の受け手は暗号化された情報を意識することもなく、複合化を行う機械すら与えないという特長を持つ。

従来のマルチメディアデータのコンテンツに自信の情報を埋め込む方法
(1) 特定のフォーマットを利用し、ヘッダ領域などに情報を欠き込む。
欠点
 ・ 情報の格納されている場所が明らかなため、第三者による情報の改変が容易
 ・ コンテンツを直接操作されても、それを検知できない
 ・ コンテンツのフォーマットを変換すると、情報が失われる
 ・ コンテンツをAD/DA変換すると情報が失われる

(2) データベースとコンテンツをリンクさせる
欠点
 ・データへのリンク先はコンテンツそのものではなく、一般にコンテンツを含むファイルに対して行われるため、コンテンツの不正な改ざんに弱い
 ・データベースと連携したシステム内での、限定的な用途でしか利用できない。

電子透かしにより埋め込まれた情報
 ・コンテンツそのものに情報が埋め込まれているため、データのフォーマットの変換後もその情報は失われない
 ・コンテンツが加工されても情報は残る
 ・コンテンツに加えられた加工を検知できる
 ・情報を管理するために外部にデータベースなどを構築する必要がない
 ・既存のデータフォーマットをそのまま利用できるため、従来のアプリケーションに変更を加えることなくコンテンツの利用が可能である
 ・埋め込まれたデータを、特定の利用者のみが利用できるように設定することができる

2. 電子透かしの要件

電子透かしに求められる要件
1. データをコンテンツの中に、不可視の状態で埋め込むことができる
2. 透かしを埋め込んだ者(あるいはその代理人)が、必要なときに抽出することが可能である
3. 透かしは、コンテンツを加工しても残り、抽出が可能である
4. コンテンツの利用価値を保ったまま第三者が電子透かしを除去するのは困難である
 

データ管理者がユーザに著作物を配布する際、著作物に対して、著作者やユー ザIDなどの情報を透かし情報として埋め込んでおく。 透かし情報を取り除こうとすると著作物の質が落ちてしまうようになっており、 またデータ圧縮などの操作を施しても透かし情報は失われないようになってい る。 管理者は不正コピーを発 見した時、透かし情報を確認することによりどのユーザが不正を行ったかを特 定することができる。

現在の研究課題

          埋め込むデータ量の最適化。
          より通信量の少ないプロトコルの設計。

電子透かしの埋め込み技術

 デジタルコンテンツへの電子透かしの埋め込み方の代表として、フルカラー画像と音声データを例に説明していく。

フルカラー画像への埋め込み

 一枚の画像は格子状の点(ドット)の集合として表現されている。フルカラー画像では、各ドットの色の要素として赤、緑、青(R、G、B)に分けられた成分がそれぞれ8ビットずつの情報を持っている。
 これは、赤、緑、青ごとに、0から255の段階で色の濃淡を表してることを意味している。
 例えば、ある画像の1点は、 という情報を持っているとする。
 ここで、緑の値31を1減らして30と変更して、新しい画像を作成したとしても、この画像と元の画像を比較したとしても、人間の目ではその判別はまず不可能である。同様に、他の点の情報を少しずつ変化させていっても知覚することは無理なことが予測できる。
 このように、一般的な画像では人間の目に近くされないレベルでかなりの点の情報を変更することが可能である。これを画像情報のもつ冗長度として捉えることができる。

 この冗長度を利用して、情報の埋め込みに利用することを考えてみる。各色の値は0から255までの値を取ることが可能であるが、この値を0と1に対応させるには、

という各値を2で除算した余りを求めることによって実現できる。
 次に埋め込みたい情報が、01100101...という形で与えられていたとすると、それをデータの左上から1ビットの情報を1つの点に対応させていく。このとき、画素値が埋め込むデータと一致している部分はそのままの画素値を利用し、位置していなければ、画素値の変更を行う(上記の式を用いる場合は、Xに1を増減する)。
 画像データから、埋め込んだデータを取り出す場合には、各点の画素値を f(x) を用いて1と0に復元する操作を行えばよい。
 この埋め込み方法を使えば、デジタルテキストは文字コードによって、8ビット(英数字)、16ビット(日本語等の全角文字)の値を有しているから、文字列を画像データに埋め込むことが可能になる。
 同様にすべてのデジタルデータも2進数で表すことが可能である。しかし、実際に著作権情報を埋め込むには、データ量の少ないテキストデータを埋め込むことが多い。

 画像の透かし情報の埋め込みには、音声ファイルへの埋め込みにも使われるウェーブレット変換を用いた手法や、JPEGファイルのDCT(離散コサイン変換)圧縮を利用した方法もある。

音声データへの埋め込み

 音声データは、標本化(サンプリング)周波数と量子化手法によって表現される。
 標本化周波数とは単位時間あたりの標本化を行う頻度を表し、周波数が高いほど高音質のデータの再生が可能である。音楽CDでは44.1kHzの標本化周波数を持っている。
 量子化手法は、標本化を行った各データの値(連続値)を、どうやって離散値に置き換えるかを表す。

 もっとも簡単なデータ埋め込み方法は標本化を行った情報の下位ビットを捜査して情報を埋め込む手法である。この方法は、画像データの画素値を直接捜査する手法と似ているが、透かし情報への攻撃に対する耐性が低く、雑音やサンプリングレートの変更により情報が失われてしまうなどの欠点がある。しかし、埋め込み処理の計算量が少ないため、リアルタイム処理に適している。

 音声データへのデータ埋め込みには、フーリエ変換やウェーブレット変換を用いた方法もある。この2つの技術は波のような形式のデータを分析する手法だが、そこで得られた係数情報を操作することにより透かし情報を埋め込むことができる。これらの手法では、透かし情報に対する攻撃にも強いが、計算量が多いため、リアルタイム処理には向かない。

 また、インターネット上ではデータ量を減らすため、音声圧縮を行うファイル形式が多く存在するが、圧縮プロトコルを利用したときに使用される係数情報や制御情報を利用して情報を埋め込む手法もある。

 以上、専門的な説明は省略して説明した。
 今後は、デジタル衛星放送時代に象徴されるように、デジタル情報の動画の配信が本格的に行われていくが、標準フォーマットとして利用される動画の圧縮形式、MPEGを利用した動画への電子透かしの実用化にも期待がかかっている。



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