TRAVEL ESSAY

「Malaika / Miriam Makeba」


最後までお付き合いいただきありがとうございました(最終回)

ケニヤ旅行記(13)

1980年2月8日から3月18日まで

最終回 クワヘリ、ヤクオナナ

 

 今日は日曜日なので昨夜、深沢くんが言っていたシーク教の寺院へ行ってミサに参加する。我々の目的はその後でただで食べられる食事なのだ。カレーとチャパティが食いたい放題で、私はチャパティを5枚も食べてしまう。ホテルに戻って送る荷物をパッキングして10Kgぐらいの見当で2つ作る。それをAfrican Heritage までもっていく。一つの方が10Kgを越えているのでその場で少し荷物を減らして作り直す。その後、シティ・マーケットの方へ行って小物のみやげを探す。しかし日曜日なのでほとんどの店は閉まっていた。ナイロビの町もこれで見収めかと思うと、一通り町を歩きまわって帰ってくる。

 ホテルに戻って、庄司が買ってきたパイナップルを3人で食べようと思ったら、一人見知らぬ日本人が入ってきて一きれつまんでいいかという。ザイールから帰ってきたばかりの人で、同室の前田くんのことを知っていた。ザイールあたりを回ってきただけあって、かなり図々しく、まだいいと言っていないのに、もう一つ口にもっていっていた。しばらくその彼と旅の情報交換をしたり、自分たちの荷物をまとめたりして時間を潰した。夕方近くになって腹が減ったので、前田くんを誘って最後の晩餐を取った。34シルもかけての豪華な食事になってしまった。前田くんとも今日でお別れである。思えばあの飢餓に近いロドワー以来、何が気に入ったのかずっと一緒の行動だった。単独旅行を常としていた彼にとっても、我々のようないい加減なコンビは気が楽だったのだろうか。それにしてもあの最初会った時の彼の顔付きは忘れられない。まるで餓鬼のような形相であった。今、穏やかに食事を取っている前田くんに日本に戻ったら何がしたいのか尋ねたら、意外な答えが返ってきた。ホンダに就職したい、とのことだ。今時の若者はしっかりしているな、とつい自分の同じ頃と、比較してしまう。

 ちょっと出発には早かったが、もうすることがなかったので、暗くなってからすぐにホテルを出る。前田くんがバス停まで送りにきてくれる。いろいろ有難う、とお礼を言って34番のバスに乗る。

 空港までの道のり、様々な思い出が頭の中を駆け巡っていた。いろいろな顔が目の前を横切っては消えた。あのマライカのメロディも盗難事件もロドワーの暑さもカカメガの星座の輝きもすべてが夢のようであった。ただ実感できる長い旅の証しは、この真っ黒に日焼けした体と心地よいまでの疲労感であった。おそらくもう二度とはこうした旅行は体験できない予感がして複雑な思いがした。とりあえず私は横でうとうとしている庄司に深い感謝の念を抱いた。何度も対立したり、随分迷惑をかけたりしたが、何よりも彼の楽天的な精神に救われて貴重な旅行ができた。そのことをいつかこの記録を通して彼に示したいと思った。

 思えば、どんなことがあってもそれを書き留めようという気持ちは最後まで消えなかった。私にとっての非日常的な体験をいつかもう一度体験するために、メモをとり続けた。予想外の展開に振り回されて、放擲したくなったこともあったし、正確に表現できないもどかしさから、解放されたいと思ったことも多かったが書くことで日常の自分を取り戻そうとした。

 一気に空港まで走るバスの中で、一瞬にして以上のような感慨が錯綜してよぎった。ロビーで暇を潰していたら、PIAのカウンターにあの榊原氏と谷、深沢両くんがやってくる。このジャズ喫茶のマスターとはケニヤに入国して以来、一度も会っていなかったので、奇しくも入国と出国が一緒の縁となってしまう。何とこのマスター、ケニヤに入ってすぐにマラリアにかかって死にそうになったそうな。みんな凄い体験を引き連れての出国なのだ。

 ロビーでのんびりビールでも飲みながらチェック・インの時間を待つ。いろんな情報が乱れ飛んだが、結局予定通りの時間に出発できることになる。問題は我々の荷物の多さである。二人合わせれば、優に制限重量を越えてしまう。そこでマスターの荷物と我々の荷物を一緒にして3人分の重量ではかりにかける。それでも針は60Kgのところをいったりきたりしている。やむを得ず、載せた荷物を足で下から持ち上げるようにして、その瞬間を係員にチェックさせる。どうやらOKらしい。

 そんな苦労をして乗り込んだ飛行機は予定より20分程遅れて動き出す。様々な思いが再び私を襲う。何はともあれ、無事の帰還を喜ぶべきか。やり残したことへの拘りと、数々の失敗を抱え、緩やかに機体は離陸する。クワヘリ、ナイロビ、クワヘリ、ヤクオナナ。(Goodbye, See You Again.) 往きの送迎バスの中で歌ったマライカのメロディが今またよみがえる瞬間であった。

   Malaika, Nakupenda Malaika,  
     Malaika, Nakupenda Malaika,
     Nami nifanyeje, kijanamwenzio, 
     Nashi ndwa na mali sinawe, 
     Ningekuoa, Malaika
注)ケニアで一番ポピュラーな歌「マライカ(天使という意味)」

=完=


冗長な文章にもかかわらず最後まで読んでいただいてありがとうございました。もしよろしければ、どんなことでも構いませんから、ご感想を是非、こちらまでお寄せください。

この旅行記は同行の庄司喜郎くんに捧げます。彼なくしてはこの旅行も実現しなかっただろうし、こんな長い記録もすることがなかったと思います。現在、インドにいる庄司くん、元気でいますか。

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