TRAVEL ESSAY

マガディ行きの乗合いバス



ケニヤ旅行記(4)

1980年2月8日から3月18日まで

第4回 レイク・マガディへ

 Do Do Houseに泊まった翌日は、上野さんの話しに啓発され、レイク・マガディへ車を借りて出かけようということになった。昨夜、寝る前にフラミンゴのいるソーダ湖の話題となり、庄司がえらく関心を示していたのだ。

 先ず、ナイロビまでバスで出て、昨日訪ねたレンタ・カー屋へ行く。ここのエスタ嬢とはもう顔見知りである。どの車にするかカタログを見ながら交渉する。いいのがある、ということになって、一旦コーヒー屋で上野さんたちが待っている間、我々はやはり昨日行って午前中しまっていて手続きの出来なかったインド大使館へビザの申請をしに出かけた。戻ってきて車をみせてやるからということで、エスタたちと車でAVISの代理店までいく。そこでトヨタの1200ccを見せてやるというので一緒にヒルトン・ホテルのそばの駐車場まで行って、私の運転でその店まで戻る。初めて走ったアフリカの中心街を、普段乗り慣れている日本車だとはいえ、多少緊張気味にそろそろと回る。道路はイギリス式というか、日本と同じ左側通行なので、そんなに違和感はなかったが、いきなりの運転にいささかビックリしてしまった。

 しかし、いざ手続きという段になって、うかつなことに、私も庄司も運転免許証を日本においてきてしまったことに気付いた。まあ、アバウトな国だからそんなものなくてもオーケーかと思っていたら、はっきりと断られた。そこで上野さんとも相談して、バスで行こうということになり、もう一度Do Do Houseまで戻り、必要なものだけをパッキングして3人で出かけた。

 ナイロビの乗合バスのターミナルはバザールの後方にあり、2時頃発車というマガディ行きのバス乗り場はダウン・タウンのずっと先であった。やっとその場所を聞きつけて荷物と一緒に後部座席に乗り込む。出発まで少し時間があったので、上野さんは果物でも買ってきます、と言って出ていった。庄司もちょっと便所へいってくるとかいって、降りてしまった。やがて上野さんは戻ってきたのだが、庄司がどこへいったのかわからない。もうとっくにバスの出発時間を過ぎているのに、一向に姿が見えないのだ。バスの車掌が上野さんに彼はどこへ行ったのかと聞いている。心配顔の上野さんはバスを降りてそのバザール周辺を一生懸命探してくれる。バスも一緒にゆっくり旋回しながら、探すのを手伝ってくれる。同乗の客も取り残された私と外を探している上野さんとを見比べながら、大丈夫か、という顔つきである。こういう時のexcuseの言葉がみつからず、私は冷汗が出てきた。3人の荷物があるので、降りるに降りられず只扉の前に立って、外の様子を窺うのみである。あの、バカ、何やってるんだ!ってどなりたくなった。いつまで経っても現れないので、覚悟を決めて、3人の荷物を下ろそうとしたところへ庄司が戻ってきた。どこかで音楽の演奏を聞いていたとか、のんきなことを言っている。運転手をはじめ、車掌、乗客の全員にソーリー、アサンテ(ありがとう)を連発してバスが出る頃はもう2時45分を過ぎていた。

 バスがナイロビの町中を出て一歩郊外へ向うと、そこは一気に高原のサバンナ地帯である。この国のローカル・バスは、山岳地帯に入って登りが続く間は時速10キロか15キロ程でガタガタいっている。が一転して、下りや見通しのきく一本道などでは100キロ近くの猛スピードで突っ走る。加減というものを知らないらしい。この運転手、大丈夫かなと思って顔色をみると、そんなワイルドな運転に似つかわしくない穏やかな顔付である。乗客も誰一人として恐がったり、抗議したりする者はいない。

 途中、キセーリアンというところでバスは停車し、小休止である。降りたついでにそばの店でチャイを飲む。するとそれまでのハードなバスの行程を忘れて、一辺に活力がわいてくるようだ。全くこのチャイという飲物は不思議な飲物である。丁度ラクビーの選手が倒れた時、かけるやかんの水のように、旅の疲れを吹き飛ばす魔法の飲物である。あまったるいミルク・ティのようなものだが、使うミルクが特別なのか、こんなにおいしいティは飲んだことがない。

 このキセーリアンというところを過ぎるあたりから、かのマサイ族がバスに乗ってくる割合が多くなった。初めて真近で目にするマサイの人達は実に精悍そのもので、男も女もみな美しい体躯をしている。八等身は優にあると思われるプロポーションで、足がすらりと長く伸び、まるでカモシカのようだ。最初はあまりジロジロ見ると悪いと思ったが、ことある毎に盗み見してはその民俗衣装などを観察していた。耳に通したビーズのリング、首に幾重にも巻いた金属製のネックレス。腕輪に指輪、足にまで装飾品をつけている。どれをとっても手作りの素朴な味がでていて、素晴らしいアートである。

 さてバスは途中、どこからともなく現れてくるマサイを乗せたり、とんでもないところで降ろしたりしながら、相変わらず猛スピードでとばしていく。一体あのマサイたちはどこから来てどこへ帰っていくのだろう。そんなマサイに思いを巡らせていると、バスは一瞬するどいブレーキをかけて急停車する。驚いて外を見ると、一頭のキリンが車の前を通り過ぎたのだ。あわててカメラを取り出し、シャッターをきるが、あっという間の出来事で思うようにとれたかどうか不安だ。動物写真というものはやはり難しいものだ。

 このあたりはいろいろな自然現象が観察できる。例えばサバンナに赤い土の塊が方々に盛り上がっており、ところによっては1m以上の高さになっている。これは上野さんによると巨大な蟻塚だそうで、無数の蟻が住んでいるとのことである。又、大きな木の枝には何の鳥か分らないが、三角垂の形状の巣を作っており、上野さんはこの鳥の巣をとても欲しがっていた。他に動物でいうと、マサイが一緒に放牧している痩せた牛や馬をはじめ、モンキー、ロバ、バッファロー、インパラ等を見ることができた。こんなことなら無理に金をかけてサファリ・ツァー等に参加しなくても十分だと思った。
=以下第5回分へ=

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