コンサートレポート

布谷さんはやはり志ん生タイプの天才ブルース・シンガーでした。

布谷文夫コンサート


2004年8月8日(日) 渋谷LIVE HOUSE KABUTOにて

布谷さんの久々のライブが渋谷で行われる、と聞いたのはかなり前のことでした。いつもお世話になっている島村さんが自主企画で催している『ONE WONDERFUL NIGHT』というイベントに布谷さんがまた出演すると聞いて心底嬉しく思ったものでした。何故なら布谷さんは体を悪くして入退院を繰り返していていつ次のライブをやってくれるか分からなかったからです。更に驚いたことにバック・ミュージシャンに盟友、伊藤銀次氏をはじめとして上原裕、矢野誠、田中章弘という名うての「一期一会」メンバーが揃ったことで私の関心は頂点に達してしまいました。私を始めとした中年リスナーで、70年代にティンパン系の音楽で産湯を浸かった連中にとって、このメンバーは当時でも聴くことのできないゴールデン面子なのです。マージャンで例えれば、メンタンピン三色ドラドラといった感じでしょうか。ですからどうしても観たかったライブでしたが、実は予定がかぶってしまい、危うくパスするところだったのです。そんな気持ちの高ぶりを抱えながら、勇んで駈け付けたのですが、1時間前でも店の前には誰も姿をみせておらず、一番前に並んだ私としてはちょっと拍子抜けという感じでした。うーん、最近の人にとってはそんなものなのか、と一人つぶやきながら開場を待っていました。

それでも始まってみれば知り合いの方も多く揃っており、実に打ち解けた雰囲気のうちに布谷さん登場ということになりました。開口一番「シュー!」といういつものかけ声とともに「ノンボーダー・ギターリスト」ギンジ・イトウを紹介し、二人で渋いブルース・ナンバーを2曲(レイ・チャールズの「アンチェイン・マイ・ハート」とジョン・リー・フッカーの曲)演奏してくれました。例によって天然ボケ全開のMCで、笑いをとり、布谷さんを待ちわびたファンのかけ声が交差するインティメイトなコンサートとなりました。

布谷さんはこれまでにも何回かライブを観たのですが、観る度にこの人のオーラに圧倒されることばかりで、その独特の語り口と意図しない爆笑トークで自然と観客の心をとらえてしまう魔力を持っていることを確信できるのでした。この日もバック・バンド全員が揃っての演奏「フィーリング・オールライト」を皮切りに「颱風13号」「空のベッドのブルース」「夏バテ」「冷たい女」等を立て続けに披露してくれ、涙ちょちょぎれるパフォーマンスを展開してくれました。

勿論、曲の間のトークが絶好調で、何気ない話しが布谷さんのフィルターがかかるとえも言われぬ可笑しさに変ってしまうのは人柄だけのせいでしょうか。例えば、うまく伝えられないのですが、故郷の蘭越(北海道)のトンネル事故を回想して説明するMCではこんな感じで話しをしてくれました。<<・・・ぼく余市高校だったんですけど、バスの一番前で学業に励んでいたのですが、(笑い)ウヮーと100mくらいにわたって雪崩がきて、こんなに大きな岩が、♪バスが通る♪道に、落ちてきて、このやろうー、って感じて(爆笑)、20人くらいバスの中で死んじゃったんですよ。・・・>>その後、銀次さんとの掛け合いでウニを取るロック・ミュージシャンの話しやら北海道の観光の話しなどをしてくれ、「今度、ご馳走しますよ」と言って更に笑いを誘っていました。

肝心のこの日のメニューのその後は前回の下北沢ロフトでもやった「People Get Ready」や大瀧ナンバーの「びんぼう」、ドクター・ジョンの「Right Place Wrong Time」オリジナル・ブルース・ナンバーの「朝めがさめて」(順不同)を歌ってくれました。あっという間のアンコール演奏でもアカペラで「ナイアガラ音頭」を歌ってくれ、「深南部牛追唄」を全員で演奏し、銀次さんと一緒に再び登場し、「What'd I Say」を観客と掛け合いで歌い、更におまけで「スキヤキ」をアカペラでやってくれたのでした。惜しむらくは銀次さんの持ち歌も披露してくれると更にお得感が高まったのでしょうが、そこまでサービスはしてもらえませんでした。

布谷さんの凄さは時間が経つ毎に声が出てくるとでもいいましょうか、体はガタガタなのに(失礼!)ヴォーカルはしっかりブルースを奏でているのです。特にこの日のセッション・メンバーとのコンビネーションがよく、銀次先生の昔を彷彿させるブルース・ギターや矢野誠さんの珍しい演奏シーンやかつてのごまのはえ、ハックルバックが甦ったようなリズム・セクション(ユカリ&田中さん)も安心して聴ける要因でした。特に矢野誠さんの演奏が聴けることが貴重な体験で、私からするとめったにお目にかかることのないお方なので、耳をかっぽじいてキーボードの音を追っていました。

それにつけてもこの歳になって30年前に入れ込んでいたミュージシャンたちが元気に演奏している様は一瞬キツネにつままれたような錯覚とじわじわとした深い喜びをもたらしてくれました。布谷さんをはじめとしてそれぞれの実力派ミュージシャンの姿には音楽を長くやっていることへの自信と余裕のようなものを感じミュージシャンのあるべき姿を見せつけられた思いでした。そしてこれらプレイヤーと生の時間を共有できる至福感をしみじみとかみしめていました。大袈裟に表現すると布谷さんの熱いヴォーカルを聴いていると、自然と目頭が熱くなるような感動を感じずにはいられないのです。(最近めっきり涙腺がもろくなっているのです)

こういった布谷さんの魅力の感じ方はライブを体験したことのある人とそうでない人とでは雲泥の差があるのではないかとも思われます。それくらいライブにおける布谷さんの一挙手一投足は見事なまでにライブ・パフォーマンスを理想のものに仕上げているように思えました。例えば大掛かりな舞台装置や、考え抜かれた演出方法で魅力的なコンサートがあったとしても、布谷さんのでたとこ勝負、筋書きなしの展開の方がより効果的に思える程、自然な運びがライブには欠かせないと思うようになりました。むしろ、そういった舞台で生の自分をどれだけ見せられるかが偉大なミュージシャンに与えられた素質のように思えました。これまでにも布谷さんのことを志ん生師匠に例え礼賛してきましたが、今回も思い入れだけではなく、実感としてこの方は「天才」肌のタレントを兼ね備えたミュージシャンで、そう思える人はロック界広しといえども布谷さんを措いてはいないのではと思えるほど唯一無二の存在に思えてならないのです。このレポートを読んでそんなに持ち上げないでもいいのに、と思った方がいたなら、是非布谷さんのライブを一度、体験してみてください。その不思議な魅力にとりつかれたら、きっとこの浮ついたコメントにも同意してくれると思いますので。

最後にこの素晴らしいライブを企画してくれた島村さんに心の底からお礼と労いの言葉をお送りしたいと思います。思えば最初に布谷さんのライブを観たのも島村さんの『ONE WONDERFUL NIGHT』でしたし、これまでにも私にとっては貴重なライブ・パフォーマンスをいくつも体験させてくれた恩人でもあるのです。気軽に友達のように接していますが、この機会に改めて彼の功績を称え、地味ながら継続してメッセージを発信していくことの重要性を見直したい思いでいっぱいです。島村さん、多くの感動をありがとうございました。

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