1998年9月27日
『イヤー・オブ・ザ・ホース』(YEAR OF THE HORSE)
(感想文)これは前々から見たかったクレージー・ホースというバンドのライブとドキュメントを繋いだ映画なのです。私がここであえてニール・ヤングとそのバンド、クレージー・ホースと紹介しなかったのには訳があります。映画の中でもニール本人が語っていますがこのニールを含めた4人のバンドは不思議なバンドで、4人の総合体としての特徴が現われたバンドなのです。ですからニール・ヤングという不世出のロックン・ローラーとそのサポート・バンドという性格のものではないということがよく分かる映画となっています。
監督のジム・ジャームッシュもこの4人を均等に紹介していてグループとしてのパワーや対立、歴史、交流等を描いているように思えました。そこで他の3人のメンバーも紹介しておきましょう。先ずストーンズのビル・ワイマンのような風貌のオリジナル・ベーシスト、ビリー・タルボットが結構重要な役所にいるようです。絶えずニールと意見がぶつかったりするのですが、一番彼のことを理解しているメンバーのようにも思えました。それとやはりオリジナル・ドラマーのラルフ・モリーナ。ニールが彼のことをこうコメントしていました。"ラルフは我々にパワーを与えてくれる"と。彼のダイナミックなドラミングはクレージー・ホースというバンドの特徴ともなっているようです。最後に途中から参加したギターリスト、フランク・"ポンチョ"・サンペドロ。自分のことをギターリスト兼コメディアンと語るように大変明るい性格のようで彼もしっかりとメンバーに溶け込んでいました。
この4人のメンバーによるヨーロッパ・ツアーとアメリカ・ツアーのコンサートの模様を例によってあの粗い画面で紹介していくジム・ジャームッシュの視点がはっきりしていて好感が持てました。つまりクレージー・ホースというバンドの魅力をそれまで関わってきた人達のことをメンバー自身に語らせることによってこのパワフルなバンドの源を解き明かしてくれたという気がしています。しかし先の陽気なポンチョがいみじくも語っていましたがたかだかニューヨークから偉い作家(監督のジムを指す)がきてちょっと我々のことを紹介したって分かるわけはない、みたいなことを自信とユーモアを含めて語っていました。そう、これでクレージー・ホースというバンドの軌跡はちょっとたどることはできても彼等の本質はとても理解できるものではないと思いました。
印象に残ったシーンはメンバー同士が亡くなったオリジナル・メンバーのダニー・ウィットンのことやエンジニアだった、これも亡くなってしまったデヴィッド・ブリッグズの思い出を語るところなどです。このあたりはこのバンドの歴史というよりアメリカン・ロック・バンドの変遷が見え隠れして大変興味深い部分でした。ジャック・ニッチェやニルス・ロフグレンなんて名前も出てきたりしたり、ドラッグが現実にミュージシャンの間に蔓延していた事実などが語られていました。
肝心のコンサートのパフォーマンスも見事で、特に私は2度程震えがくる程の興奮を覚えました。それは先ず「Tonight's The Night」の出だしで、聴き慣れたベース・ラインからニール・ヤングが歌い出だすところと「Like A Hurricane」の「Once I thought ...」と歌が出てくるところで思わず寒気のような感動が走りました。多分よく聴き慣れた曲だったからでしょうが、ライブ・コンサートではなく、映画館では珍しい現象でした。(言い忘れましたが映画の音響はドルビー・サウンドで大変迫力がありました。)それほど彼等のライブは素晴しい雰囲気が伝わってくるもので、いわゆるロック魂のようなものをストレートに感じました。ニール・ヤングの魅力はその曲作りの他にこんなスピリットをフアンが感じとるから昔から根強い支持を得ているのでしょう。それがこのクレージー・ホースというバンドの力によるものだということが改めて分かったドキュメンタリー映画でした。機会があったらもう一度見にいってみようと思っています。ニール・ヤングのフアンだけでなく広くロックを愛する人達にもお薦めしたい映画でしたが、ちょっと観客の数が少ないのが気になりました。
ジム・ジャームッシュ監督、1997年アメリカ作品。
(キャスト)ニール・ヤング、ビリー・タルボット、ラルフ・モリーナ、フランク・"ポンチョ"・サンペドロ、ニール・ヤングの父他
9月19日からシネマライズ渋谷にて公開中。
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