1998年12月26日
『ルル・オン・ザ・ブリッジ』(LULU ON THE BRIDGE)
(感想文)今とっても若い層から支持の高いアメリカの小説家、ポール・オースターが自らが脚本・監督を担当した映画ということで観にいきました。実は前々作の『スモーク』でおや、っと思って気に入った作家なのでちょっと期待して観てしまいました。
ストーリーはジャズのサックス奏者だった主人公イジー(ハーヴェイ・カイデル)が不図した事故から銃弾を浴びてしまい、片肺を失ってしまいジャズ・プレイヤーとしての生命を絶たれてしまうところから始まります。生きがいを失ったイジーはある夜、道端で見知らぬ男の死体を目撃する。その近くにあったカバンを何気なく持ち帰るとその中にはレシートと電話番号をメモした紙と小さな石ころが入っている。その石が不思議な光りを放って輝き出す。その魔力に引き付けられイジーはメモにあった電話番号に電話をしてしまう。そしてその電話に出た相手が売れない女優の卵でレストランでバイトをしているセリア(ミラ・ソルヴィーノ)という女性でこの二人がやがて恋に落ち、物語が動き出す、という流れなのです。
この二人の恋に落ちていく様を不思議な魅力で構築していくあたりはポール・オースターの面目躍如といったところでしょうか。でも私にはその二人の出会いや恋心を抱くまでの経緯があまり理解できないままストーリーを追ってしまったので、最後まで何か割り切れないものが残ってしまいました。というよりこの映画には随所に仕掛けがあって実はそうした至上の愛も架空の世界での作り事で、現実は銃弾に倒れた瀕死のイジーが見た一瞬の夢物語なのです。このあたりが物語を複雑にしている要素のような気がしました。
それが効を奏しているのかどうか分かりませんが、映画的というより小説的な世界のような気がしました。オースターの小説にはそうしたプロットで展開する物語が多いので、これに慣れていないといつまでたっても彼の世界に入っていけない弱点があります。
むしろこの映画はそんなプロットで観客を引き付ける類のものより、ハーヴェイ・カイデルという渋い俳優とタランティーノと離婚してますます美しくなっていったミラ・ソルヴィーノという女優の存在感で持っている映画のように思えました。キャスティングの際、オースター自身が強くハーヴェイを意識していたとのことですのでイジーという主人公とハーヴェイ・カイデルという俳優の個性がだぶっていたことは否めません。でもハーヴェイ・カイデルにジャズのミュージシャンという役所はあまり的を射ていないようにも感じました。
他にもバネッサ・レッドグレイプだとかウィレム・デフォーなどという存在感のある俳優が端役で出演してこれもなかなか見応えがありました。特に謎の博士役で登場したウィレム・デフォーの顔の骨格にしびれている私は『プラトーン』以来のはまり役に満足してしまいました。何でもこの役、急に決まったとかで感情移入が程ほどだったので却って存在感のある役柄を演じられたとか何かに書いてありました。
ポール・オースターという作家のものは結構読んでいるのですが、『スモーク』といい『ブルー・イン・ザ・フェイス』といい映画的なものとそうでないものがあるようで、唯一『スモーク』は映画としての表現の方がよかった作品だったと思っています。この『ルル』もどちらかというと活字の世界の方がインパクトがあったのではないでしょうか。
ポール・オースター監督・脚本、1998年アメリカ作品。
(キャスト)イジー・モーラー:ハーヴェイ・カイデル、セリア・バーンズ:ミラ・ソルヴィーノ、ヴァン・ホーン博士:ウィレム・デフォー、ハナ:ジーナ・ガーション、キャサリン・ムーア:ヴァネッサ・レッドグレイヴ、フィリップ・クレインマン:マンディ・パティンキン他
12月19日から恵比寿ガーデンシネマ2にて公開中。
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