2016年3月5日

『レッキング・クルー 伝説のミュージシャンたち』


(感想文)
映画を観る習慣はこの欄に感想文を書く以前から一つの楽しみとして続けていました。ところがカフェ営業始めたり、自主制作でCDを発売する頃から映画館に通う習慣がなくなってしまいました。その間にも印象的な作品はいろいろあったのですが、時間がない、暇がとれない、という理由で遠ざかっていました。また私のような偏った感想文を一般の人が読んでどうする、という自警の念もあってこのコーナーを冬眠させていました。とやや言い訳めいた前置きから始めて最近最も感銘を受けた映画の感想を認めてみます。

レッキング・クルー。文字通り訳すと「海難救助隊」。そんな難破船に乗り合わせた選りすぐりのスタジオ・ミュージシャンを指して「レッキング・クルー」と称して多くの音楽ファン、ミュージシャンから多大の関心を抱かせていた集団の知られざる製作過程の一部がこのほどドキュメンタリー映画として公開されたのだから無関心ではいられない事件でした。製作を担当したのは超絶ギター・プレイで有名だったトミー・テデスコの息子、デニー・テデスコ。父親のトミーが肺ガンと診断されたことをきっかけに父親と彼の音楽仲間が残した音楽の功績を残しておこうという動機で製作に至ったということでした。その動機も素晴らしいアクションでしたが、その製作には様々なハードルがあって半端なドキュメンタリー作品ではないことがまず驚いたことでした。劇場公開に当たり、使用されている約130曲全ての権利をクリアするために約50万ドルという巨額の資金が必要になり、あらゆるドネーションを募って撮影開始から18年の歳月を経て公開に至ったことを思うと頭が下がる思いです。私も規模は微細な自主制作CDをリリースした際の権利ビジネスの壁を少し垣間みたことがあったので、この映画の公開意義を人一倍感じ取った次第でした。

このドキュメンタリー映画の最大の見所はこれまで我々が耳にしてきたアメリカン・ミュージックの名作のほとんどが「影武者」によって演奏されてきたという事実を証言してくれたことではないでしょうか。例えばロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」、バーズの「ミスター・タンブリン・マン」、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」、ビーチ・ボーイズの「ドント・ウォーリー・ベイビー」、「ゴッド・オンリー・ノウズ」、カーペンターズの「遥かなる影」、グレン・キャンベルの「恋はフェニックス」、フランク・シナトラの「夜のストレンジャー」ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」、エルヴィス・プレスリーの「心の届かぬラヴ・レター」等々枚挙にいとまが無いほどたーくさんあって、殆どの名曲、ヒット曲の演奏者は実はこのメンバーが関わっていたという周知の事実を当時の証言とともに紹介してくれたドキュメンタリーでした。

その中心メンバーだったハル・ブレイン(ドラムス)、トミー・テデスコ(ギター)、キャロル・ケイ(ベース)、アル・ケイシー(ギター)、ブラス・ジョンソン(サックス)、アール・パーマー(ドラムス)、ジョー・オズボーン(ベース)、レオン・ラッセル(キーボード)、ドン・ランディ(キーボード)、グレン・キャンベル(ギター)等の名うてのミュージシャンのインタビューを紹介するだけでなく、ベテランのミュージシャンが集まって昔の思い出話しを語るオフ会のような紹介の仕方(映画の撮り方)がドキュメンタリー・タッチをうまく演出していたように思えまました。その製作の一節を監督にインタビューしたものが映画パンフに載っていてとても興味を持ちました。<監督:・・ウディ・アレンの『ブロードウェイのダニー・ローズ』みたいな場面にしたかった。年老いたエージェントがテーブルを囲んで、とりとめのない話をダークなユーモアを交えて話している感じが、まさにミュージシャン達が集まっておしゃべりをする時と同じ。だからインタビューではなくて、テーブルを囲んでの座談会にしようと思いついた。・・>この映画はドキュメンタリーとして成功していると思える監督のインタビューで、私のドキュメンタリー映画ベスト・ムービーの『人間蒸発』『ウッド・ストック』『オース!バタヤン!』等に匹敵する佳作だと思いました。

また関係者のインタビューではブライアン・ウィルソン、シェール、グレン・キャンベル、ナンシー・シナトラ、ジミー・ウェッブ、ミッキー・ドレンツらに混じってハーブ・アルパート、ジェリー・モスといったA&Mレコードの創始者や私の最も関心のあるプロデユーサー、スナッフ・ギャレットも顔を出し、過去の映像ではフィル・スペクターやブライアン・ウィルソンがミュージシャンに指示するシーンも写っていて興味深いシーンの多い映画でした。ミュージシャンではキャロル・ケイが実際にベースを弾きながら有名フレーズを再現するシーンやハル・ブレインが豪邸生活から度重なる離婚等のアクシデントを経て全財産を失い警備員をやった経験を語るシーンやレオン・ラッセルの仙人のような現在の姿やモンキーズのアイドル、ミッキー・ドレンツやプレイボーイズのゲイリー・ルイスの現在の姿も分かって自分の音楽遍歴の一端を過去のアイドル・スターのその後に思いを馳せることができて懐かしかったです。

パンフに載っていた萩原健太さんのコメント「60年代から70年代のロサンゼルスで生まれたこれらの名曲たちを一生ものとしてこれからも聞き続けていくのだろうと思う。それだけに、もしこの世にレッキング・クルーの面々がいなかったら、と思うと、ぞっとする。」というのは私の実感でもあるのです。是非DVD化してもらってゆっくり、じっくりチェックしたいドキュメンタリー映画でもありました。



監督:デニー・テデスコ、2014年アメリカ映画。
エグゼクティブ・プロデューサー:ハーブ・アルパート、ジェリー・モス、クリフォード・バーンスタイン、デニス・ジョイス、撮影:ロドニー・テイラー、トリッシュ・ゴヴォニ、編集:クレア・スキャンロン、出演:ブライアン・ウィルソン、シェール、グレン・キャンベル、ジミー・ウェッブ、ミッキー・ドレンツ、ハル・ブレイン、トミー・テデスコ、キャロル・ケイ、レオン・ラッセル、アル・ケイシー、アール・パーマー他
3月4日まで新宿シネマカリテ、横浜シネマリンにて公開。



インデックス・ページへ