2002年7月8日
『月のひつじ』(原題:THE DISH)
(感想文)これはオーストラリア映画を再認識する作品として声を大にして宣伝したい作品でした。
1969年の7月21日の出来事は全世界の人々が注目してテレビの前に釘付けになった瞬間でした。そう、アメリカのアポロ11号が人類初となる月面軟着陸を成し遂げた記念すべき1日でした。いろいろな事件が多く降りかかって、しかも歳を重ねる度に記憶力が衰退していく中にあって、この事件だけはいつまでも忘れられない出来事として記憶にとどまっています。
そんなアメリカン・ドリーム全盛だった宇宙中継が実はオーストラリアの片田舎に設置した巨大なパラボラアンテナを経由して全世界に発信されていたという事実は寡聞にして知りませんでした。つまり打ち上げのスケジュールの変更により南半球にあるオーストラリアの地方都市、パークスが宇宙中継の基地に選ばれたのでした。
パークス天文台の技術スタッフは3人。チーフのクリフは最近妻を亡くした身ながら責任感溢れる頼れる存在。アンテナ操作担当のロスは人一倍負けず嫌いの性格でNASAから派遣されてきた係員、アルに当初つっかかっていく。コンピュータ担当のグレンは好きな女の子ともデートの約束を交わせないシャイなエンジニアながら複雑な計算式を操りアポロの軌道を追跡していく。そんなメンバーの他、警備担当のルーディも任務に忠実でおかしい役まわりで登場しています。この歴史的な偉業を成功させ、次期代議士選のポストを狙っている町長と軽口で有名なその妻、それに変な兵士に好かれて困っているその娘、更にアポロについては父親より詳しい知識を持った息子などが登場してきて実に楽しいドラマ仕立てとなっています。これは特定の脚本家がいないチーム・プレイによって書かれたものだからでしょうか、登場人物がそれぞれ個性豊かに描かれており、適当なユーモアもあって楽しめました。
タイトルから想像すると多くの羊が主人公となって出てくるものと思っておりましたが、泣き声だけで実際の姿は一度も登場しませんでした。歴史的なアポロ11号の月着陸はアメリカのNASAが取り仕切っているものとばかり思っていましたが、実はオーストラリアの片田舎の天文台が重要な役割を担っていたのですね。物語はアポロ11号が打ち上げられてから月面着陸という偉業を達成するまでの間、町の人々の反応や、思わぬミスによってアポロ11号を見失ってしまう天文クルーの様子や、最後のクライマックスで風と戦いながらも歴史的瞬間をあまねく伝えることができた喜びなどを丁寧に描いています。関係者たちの心の動きも分かりやすかったし、性格描写にも無理がなく、実話をベースにしているとはいえ、大変説得力のあるストーリーでした。
細かいことですが町長夫妻の食事の際のやり取りや、アメリカに馬鹿にされまいとするアルの心意気などが私には印象的でした。バックでかかっていた音楽も60年代後期から70年代にかけてヒットしたナンバー(「Good Morning Sunshine」とかDC5で馴染みの「Everybody Get Together」など)が選ばれていて、こちらも自然と心に響きました。(音楽担当はコーエン兄弟の『ファーゴ]などに参加していたエドモンド・コイという人でした)久し振りにいい映画を観たという思いで映画館を後にしました。
監督:ロブ・シッチ、脚本:ワーキング・ドッグ(サント・シラウロ、トム・グレスナー、ジェーン・ケネディ、ロブ・シッチ、マイケル・ハーシュ)、製作:マイケル・ハーシュ、撮影:グレーメ・ウッド、2000年オーストラリア作品。
(キャスト)クリフ・バクストン:サム・ニール、ロス・ミッチェル:ケヴィン・ハリントン、グレン・レーサム:トム・ロング、アル・バーネット:パトリック・ウォーバートン、ボブ・マッキンタイアー:ロイ・ビリング、メイ・マッキンタイアー:ジェネヴィーヴ・モーイ、ルーディ・ケラーマン:テイラー・ケイン他多数。
2002年7月6日より銀座シネ・スイッチ他にて公開中。
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