2001年8月4日

『蝶の舌』(LA LEMGUA DE LAS MARIPOSAS)


(感想文)このところ映画もビデオも全然観ていなかったことを反省してこの夏はバンバン映画館へ通おうと思っています。その第1弾がこの『蝶の舌』という映画で、スペインの気鋭の作家、マヌエル・リバスの原作を映画化したものを観てきました。そもそも最近、これも久し振りにこの原作小説を読んで、虚構の世界の魅力を再認識したところだったので、これがどう映画化されているのか、大変興味を持って観にいきました。

ストーリーは原作の「蝶の舌」と「霧の中のサックス」「カルミーニャ」という3編をうまく繋いで一つの映画としたもので、少年とその学校の教師との交流が軸となっている筋立てでした。主人公の少年、モンチョ(マヌエル・ロサノ)は喘息持ちのため人より遅れて入学した日にみんなの前で緊張してしまい、おしっこを漏らしてしまう。それを優しくカバーしてくれた年老いた担任のグレゴリオ先生(フェルナンド・フェルナン・ゴメス)は共和派の温厚な教師で、教室で子供たちが騒いでいても、決して怒ったり体罰を加えたりするようなタイプではない。また地元の顔ききの親がその子供へ特別目をかけてもらおうと思い、にわとりをプレゼントしても決してそれを受け取ろうとしない、そんなタイプの先生に蝶の舌が渦巻き状になっていることなどを学ぶのです。そんな先生を見ているうちに徐々に尊敬の念を持つようになるモンチョの表情が印象的でした。

そしてその兄のアンドレスは掛けだしのサックス奏者で地元のバンド、”ブルー・オーケストラ”に入団しているのですが、まだまだ初心者でバンドのメンバーからはただ吹いているようにしていればいい、なんてことを言われてしまいます。このアンドレが遠征先のある村で演奏する際、滞在した家の娘(実際はその主人の妻だった狼に噛まれた女)が以前より想像していた中国女のイメージだったので一目惚れして、演奏会の席で彼女の見ている前で驚くようなサックス・ソロを吹いてしまうあたりが面白かったです。

またグレゴリオ先生が退任し、その別れをなかなか受け止められなかったモンチョを夏休みに森に連れて行って、一緒に虫取りに興じてくれるところも印象的でした。その際、近くの湖で水浴びをしていた女の子の中にモンチョが大好きなアウローラを発見し、先生から「ティロノリンコ(オーストラリア産のこの鳥はメスに蘭の花を贈るのが特徴)のようにしなさい」と白い花を渡されたモンチョが湖に入っていって、彼女にその花を手渡す件りが大変叙情的に描かれていました。

しかし最後はこの物語の背景となっているスペイン内乱の時代の波が押し寄せてきて、共和派であった老教師や知人が次々と粛正されていき、最後には全員トラックで連れ去られるというシュチエーションで物語は幕を閉じるのです。その様子を村全体の群衆が、あたかも免罪符のように汚い言葉を投げかけ、送り出すというショッキングな場面がクライマックスとなっています。さらにその去り行くトラックに向かって、子供たちが「アカ!」とか「犯罪者!」などと叫びながら石を投げつける場面で、モンチョもその中に加わって老教師に向かって投げかける言葉がハイライトでした。モンチョはそれまでの思いの丈を「ティロノリンコ!」「蝶の舌!」ということばに託して泣きながら叫ぶのです。

どうもうまくストーリーを説明できないのが歯がゆいのですが、全体にスペイン、特にガリシア地方の自然と、1930年代のスペインの政治状況がうまくマッチされて描かれていたように思えました。久し振りに観た映画だからだったせいか、映像の断片が記憶の底に残って、いい映画をみた思いで会場を後にしました。

とりわけ、私はこの老教師のグレゴリオ先生に自分の小学校の時の担任、佐橋先生のイメージを重ねていました。佐橋先生、そう、私の結婚式でも仲人を無理やりやっていただいた先生に、私は勉強以外の諸々の遊びを教えていただきました。麻雀、ビリヤード、花札等を先生の家に正月、遊びに行って教えてもらいました。そんな思い出が甦るようなかつて存在していた師弟関係をこの映画を観て連想しました。今はどうか分かりませんが、我々の時代には確かにあった学校の先生のイメージが1930年代のスペインの片田舎を描いたこの作品に見てとれてよかったと思っています。


監督:ホセ・ルイス・クエルダ、脚本:ラファエル・アスコナ、原作:マヌエル・リバス。1999年スペイン作品。
キャスト、ドン・グレゴリオ:フェルナンド・フェルナン・ゴメス、モンチョ:マヌエル・ロサノ、ローサ:ウシア・フランコ、ラモン:ゴンサロ・ウリアルテ、アンドレス:アレクシス・ロス・サントス、ロケ:タマル・ノバス他
2001年8月4日より銀座シネスウィッチ他にて公開中。



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