2001年3月4日
『ハイ・フィデリティ』(HIGH FIDELITY)
(感想文)最近は映画も去年並みに観ているのですがなかなかコメントしたくなるような作品に恵まれなくてこのコーナーの更新も滞り気味でしたがやっと話したくなる映画を観てきました。『ハイ・フィデリティ』という中古レコード屋さんを舞台にした楽しい映画です。これはもともと知り合いの大久保さんのホームページでネタに取り上げられていたのに興味を持って、原作であるニック・ホーンビィという作家の小説を読んでみたのがきっかけで映画が公開されたら真っ先に観に行こうと思っていたものでした。
ストーリーはその中古レコード屋を経営するロブ(ジョン・キューザック)の失恋女性遍歴をベスト5という形で面白く紹介するもので筋立てより全編にわたってレコードという脇役がスクリーンの至るところに登場するアナログ・レコード・フアンにとってはたまらない映画なのです。そう、つまりこの映画の陰の主役はこのもの言わないレコード・ジャケット群かもしれません。あっ、あのレコード、持っている、とかあれ?あのジャケットは何だろう、などとなかなか目の離せないショットが至るところにちりばめられているのです。(多分もう一度観れば更に気が付くレコードや音楽を発見するに違いありません)
勿論、原作を読んだ人ならこの作品のポイントがそのすっかり振られ癖のついてしまった主人公、ロブとそのガール・フレンド、ローラ(イーベン・ヤイレ)との恋の後始末を初め、好きな女の子につい編集テープを渡してしまう主人公の性向(何だかやけに身につまされるなあ)だとか、正反対の性格の店員、バリーとディックのやりとりなどにあることが分かると思われますが私にとってこの映画への関心はそこで語られるトップ5の曲やちらちら写るレコード・ジャケットやレコードを買いに来た客といじわるな店員の会話とか、レコードにまつわる諸々の事象がたまらなく興味のわく映画となりました。極言すればテーマやストーリーなんてどうでもいい映画、という評価なのです。そういう見方だってありなのではないか、と思えるほどこの映画はディテールの集合で持っているような最近珍しい映画でした。
また何の断りもなくブルース・スプリングスティーンが登場して演奏するシーンや、ロブの恋仇、ティム・ロビンス扮するイアンを頭の中でなぐったりするシーンなどは斬新でドキっとさせられました。そんな映像演出の工夫もいろいろ取り入れていて最近の映画としてもよくできていると思いました。とりわけ作品化するために尽力した主演のジョン・キューザックのセンスと情熱が伝わってくるような映画でした。実際、主演、共同製作、脚本、音楽監修とマルチ・プレーヤーぶりを発揮し、その存在感を示した本作はおそらく後々彼の代表作になるような気がします。『マルコヴィッチの穴』は観ていませんが今度ビデオでチェックしてみようと思っています。
そんなロブことジョン・キューザックの目立った作品となっているような映画ですが私にはもう一人、実に存在感豊かな新しい個性に出会えたことが収穫でした。それは一癖ありそうな店員(バリー)役を演じたジャック・ブラックという俳優の存在で、この人の登場シーンは迫力があって大変印象に残りました。そしてそんな私がこの映画で一番感動したシーンは万引き少年バンドのお披露目DJパーティにバリーのバンドも参加することになり、内心穏やかでなかったロブの予想に反し、素晴しいソウルフルなナンバーを聴かせてくれたライブ・シーン(上の写真)でした。ちょっと大袈裟に言うと、思わず身震いするような衝撃が走った箇所があのバリーの歌い出しでした。このマービン・ゲイの名曲を歌うジャック・ブラックを観るだけでもこの映画の価値はあると公言したくなるような魅力的な歌唱と選曲でした。早速オリジナルを探して聴き比べてしまいましたが、オリジナルに負けない歌唱で十分に鑑賞に耐えるものでした。彼は現在アメリカではコミック・バンド「テネシャスD」というバンドのヴォーカルとして高い人気を得ていると解説には書いてありましたがそちらも聴いてみたいものですね。
また、チャンピオンシップ・ヴァイナル(中古レコード屋)から少年達が万引きした作品の中に坂本龍一が含まれていたり、ロブがナンパする女性シンガーがクラブで歌う歌がピーター・フランプトンの昔懐かしい曲だったり、ローラの親父さんの葬式の際、死に関してのベスト5にストーンズの「無情の世界」を選んでおきながら、あれは『再会の時』でも演奏されていたので却下かもしれない、と言わせたり、断片的ながら印象に残ったシーンがいろいろありました。またバリーと対照的に内気な店員役を演じたトッド・ルイーゾという俳優もよくいそうなレコード屋の店員という役柄を大変うまく演じていて注目したい若手の一人となりました。
この映画を観終って先ず慧眼な観客が想像することは自分のこれまで観た映画のベスト5は何だろう、とか映画監督のベスト5は?とかバイ・プレーヤーのベスト5に今度のジャック・ブラックは間違いなく入るだろうな、とかいったひとりよがりな楽しいゲームかもしれません。因みに私のこの映画でかかった曲のベスト5は以下のものですがいかがでしょうか。
「Let's Get It On」Jack Black
「Tonight I'll Be Staying Here With You」Bob Dylan
「Everybody's Gonna Be Happy」Kinks
「Baby, I Love Your Way」Lisa Bonet
「The Moonbeam Song」Harry Nilsson
監督:スティーブン・フリアーズ、脚本:D.V.デビンセンティス、スティーブ・ピンク、ジョン・キューザック、スコット・ローゼンバーグ、原作:ニック・ホーンビィ。2000年アメリカ作品。
キャスト、ロブ:ジョン・キューザック、ローラ:イーベン・ヤイレ、バリー:ジャック・ブラック、ディック:トッド・ルイーゾ、マリー・デ・サーレ:リサ・ボネット、チャリー:キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、リズ:ジョーン・キューザック、サラ:リリー・テイラー、イアン:ティム・ロビンス他
2001年3月3日より恵比寿ガーデン・シネマにて公開中。
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