2000年7月7日
『サイダーハウス・ルール』(CIDER HOUSE RULES)
(感想文)『ガープの世界』や『ホテル・ニューハンプシャー』の作品で有名なジョン・アーヴィング原作、脚本の映画、『サーダーハウス・ルール』は久し振りに感じるところの多い映画でした。あまりまとまった所見が述べられるかどうか自信がありませんが、ストーリーを追いつつ振り返ってみましょう。
物語の舞台は1940年代のメイン州ニュー・イングランドにある孤児院で、そこで産まれ育ったホーマー(トビー・マグワイア)はラーチ院長(マイケル・ケイン)の篤い保護の元、医者の見習いとして子供たちからも人望を寄せられていました。しかし本来は禁止されている人工中絶手術を請け負っているラーチ院長に付いていけなくなって、たまたまその中絶手術で孤児院を訪れた若いカップル(兵隊志願のウォーリーとその恋人のキャンディ)の誘いもあって新しい世界へ飛び出していくことになります。そこがこのウォーリーの母親が経営するリンゴ園で、ここに住みこみの黒人たちと一緒に働くことになります。新しい環境にもかかわらず、ホーマーはここでも回りの人々から暖かく迎え入れられ、リンゴの収穫という仕事に精を出すことになります。そして恋人に取り残されて唯一の話し相手となったキャンディと一緒に野外映画館へ行ったり、海へ行ったりしながら関係が深くなっていき、いつしか二人は結ばれることになるのですがこのあたりの描き方も決して無理のない自然の成り行きといった感じなのです。
その後この果樹園(サイダー・ハウス)でのルールを巡ってのいろいろな事件を通し、ホーマーは大人になっていくのですが、このあたりは原作の方が読み応えがあるような気がしました。サイダー・ハウスでの規則は自分たちが作る、といった季節労働者のリーダー、ミスター・ローズが自ら犯してはならない罪によって命を絶ってしまう。信頼をしていた立派な人格の持ち主が近親相姦という形で娘のローズに子供を宿してしまうことの不条理。そうした物語の展開がアーヴィングの特徴の一つだともいえるようです。
そしてその事件や兵役から戻ったウォーリーが半身不随の身になって帰ってきたことなどからホーマーは結局また孤児院へと戻ることに気持ちが傾くのですが、それを決心させたのはラーチ院長の突然の死という現実でした。ホーマーのことを終始気にかけていた老院長は何度も手紙を出して彼の帰還を待ち望んでいたのでしたが持病の心臓病のため亡くなってしまうのでした。その知らせを受けて再び孤児院に戻る決意をしたホーマーを迎える子供たちの反応が涙を誘いました。
全体としてこのホーマーという主人公の抑制の利いた演技が物語りを引っ張っているように感じました。決して過度に興奮せずに、喜びや悲しみに対して素直に反応し、自分の行き方を終始保っていく姿が私には一番惹かれました。このホーマー役を演じたトビー・マグワイアという俳優はどこか『レナードの朝』に出演したロバート・デ・ニーロにも似た印象を持ちましたがそれはもしかしたらイノセントの類型としての印象かもしれません。ジョージ・ロイ・ヒル監督の『ガープの世界』においてのロビン・ウィリアムスのような派手さはないのですが、十分に存在感のある演技を披露してくれました。また、その相手となったキャンディ役のシャーリーズ・セロンという女優も一遍でフアンになってしまいました。この映画、そういえば『ラスト・ショー』にも通じるテイストを感じてしまったのですが、あの中のシビル・シェパード以上に可愛いらしいアメリカの地方都市の女の子を好演していたように思えました。今後注目したい女優さんの一人になりました。
他にも『ハンナとその姉妹』の演技が印象的だったマイケル・ケインはいかにもイギリスの名優といった振舞いで、安心して観ていられる数少ない男優の一人だと思いました。また威厳と問題を兼ね備えた役柄のミスター・ローズを演じたデルロイ・リンドという人やその娘役の女優なども派手さはないのですがいい俳優だなと思いました。更に孤児院の看護婦を演じたジェーン・アレキサンダーという人やどこかで見たことがあるのですがそれが思い浮かばないキャシー・ベイカーももう一人の看護婦役としていい味を出していました。また原作者のジョン・アーヴィングが駅員役として出演していたらしいのですが、その個所でうっかり居眠りをしてしまい、見逃してしまったことが唯一の悔いとなりました。
実はこの映画を観てラッセ・ハルストレムというスウェーデンの監督に興味を持って早速、彼の過去の作品、『ギルバート・グレイプ』をビデオで借りてきてゆっくり鑑賞したのですが、このデカプリオの出世作にもこの監督の姿勢が現れていて評価できる作品でした。つまりこの監督の視点は人間の持つどうしようもない性や運命といったものを個人レベルに落とし込むことによって、もしかしたら自分もそういう状況に遭遇するかもしれないという設定を作ってくれることに置かれているように感じました。アーヴィングが自分の作品を映画化するのにこの監督を選んだのにもそういったさりげない問題提起を自然にやってくれる監督だったからではないでしょうか。
思い出せば随所に印象的なシーン(例えば野外映画館のシステムやアンドリュー・ワイエスの絵画の世界を再現したといわれる舞台セット、それにタイトルともなっているサイダーハウス・ルールにまつわる話し等々)の多かった映画でしたので、観てきてから少し間をおいて振り返ってみたのですが、いろいろ印象が散ってしまい、収拾のつかない感想文となってしまいました。この感想文を読んで異論や興味を持たれた方がおりましたら、是非あなたの眼でこの映画のディテールを確かめてもらいたいと切に願う次第であります。
監督:ラッセ・ハルストレム。1999年アメリカ作品。
キャスト、ホーマー・ウェルズ:トビー・マグワイア、キャンディ・ケンドール:シャーリーズ・セロン、ミスター・ローズ:デルロイ・リンド、ローズ・ローズ:エリカ・バトゥ、ウォーリー・ワージントン:ポール・ラッド、ウィルバー・ラーチ医師:マイケル・ケイン、バスター:キーラン・カルキン、他
2000年7月1日より川崎チネチッタ他にて公開中。
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