2000年10月8日
『クレイドル・ウィル・ロック』(CRADLE WILL ROCK)
(感想文)ティム・ロビンスというとアルトマン・ファミリーの一員として『ザ・プレイヤー』や『ショート・カッツ』などで好演した俳優として、また『デッドマン・ウォーキング』にて一流の監督業に仲間入りした才人として注目していましたのでその人の話題作が封切られたというので早速観に行ってきました。
ストーリーは1930年代のアメリカが舞台で、大恐慌による不況の波に飲まれ労働者のストライキが勃発していた矢先、政府は失業した演劇人を救済しようとニュー・ディール政策の一環として「フェデラル・シアター・プロジェクト」なる政策を実施し、多くの職を失った人々にチャンスを与えようとした。そこに若き日のオーソン・ウェルズ(アンガス・マクファディン)やプロデューサーのジョン・ハウスマン(ケアリー・エルヴィス)などが関わり、マーク・ブリッツスタイン(ハンク・アザリア)の音楽の元、ミュージカル『クレイドル・ウィル・ロック』の興行を企画するという筋立てで、これに資本家やWPA(公共事業促進局)、政治家などが絡んで物語を複雑にしていました。これは実際の史実に基づいた物語で、監督のティム・ロビンスは周到な調査の元、一大イベントに集結したいろいろな人々の軌跡を立体的に描き出そうとしていました。そのオーディションに集まってくる歌手志望の浮浪者(エミリー・ワトソン=この女優の演技が良かったと思いました。)やムッソリーニを称える父親とけんかをして家出してしまうイタリア系の移民、アルド(ジョン・タトゥーロ)などを中心に出演陣は揃ってくるのですが、一方でアル中の腹話術師(ビル・マレイ)やメキシコの画家(ルーベン・ブラデス)などのアーティストも絡んでショー・ビジネスの復興を試みるのですが、この『クレイドル・ウィル・ロック』の上演は公演を前にして政府から反米的な内容を指摘され上演禁止の命令を受けてしまうのです。それでもラグランジェ伯爵夫人(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)の協力等によりやっと自主公演にこぎつけ半ば市民による市民のための演劇が成功裡のうちに終演をみることになるのです。
同じ演劇人として政治の弾圧にも屈せず興行を押し進める当時の芸術家たちに興味をもったティム・ロビンス監督の懇心の話題作、と評価したかったところですが、実際、テーマが大きすぎて詰め込み過ぎとでもいいましょうか、ちょっと焦点の絞り切れていない印象を持ちました。いい映画は多くを語りたいディテールがいっぱい詰まっているものですがこの作品にはそういった興味を引き起こさせる観点が少なかったように感じました。この映画はきっとロバート・アルトマンの手法(主人公をあえて置かずに全体で物語を引っぱっていくやり方)を参考に作られているようにも思えましたが、そのことがやや展開を分かりにくくしており、観終った後の印象が散漫になってしまった原因でもあったようでした。
しかしやはり豪華なキャスティング(他にもどこかで見たことのある俳優がちょい役で出演しているので記憶力の低下した身にはちょっと酷なキャスティングでした。)といい、セリフのテンポ(今回は脚本も担当した監督の力量を感じました。)といい、俳優出身の監督というハンデなどみじんも感じさせない見事な演出でティム・ロビンス、恐るべし、という感想を抱いたことも事実です。『デッドマン・ウォーキング』の時はこの人、案外骨太なテーマに挑戦するのが好きな監督という印象でしたが、今回の作品でも難しいテーマを正攻法で演出する才能が非凡なことを証明してくれたような映画でした。
またアメリカという国の不思議なパワーも感じてしまう映画でもありました。最後の公演の場面で客席から演技者が立ち上がって観客全体を演劇空間に巻き込んでいく様はドラマティックなことへの自然な参加意識を市民レベルで持った国だなとつくづく思いました。演劇をやる側、パーフォーマーの立場だけでなく観る側、オーディエンスとしての質の高さを持った国だなと思いました。これが日本だったらどういう現象が起こっていたのだろうかとも想像しながら最後のシーンを考えていました。
概して演劇界の事情やアメリカの歴史をもっと知っていたら面白く観れた映画ではなかったかと思い、不勉強を後悔しています。もう一度事情を知ってから観てみたいとも思いました。
脚本、監督:ティム・ロビンス。1999年アメリカ作品。
キャスト、マーク・ブリッツスタン:ハンク・アザリア、ディエゴ・リヴェラ:ルーベン・ブラデス、ヘイゼル・ハフマン:ジョーン・キューザック、ネルソン・ロックフェラー:ジョン・キューザック、ジョン・ハウスマン:ケアリー・エルヴィス、グレイ・マザーズ:フィリップ・ベイカー・ホール、ハリー・フラナガン:チェリー・ジョーンズ、オーソン・ウェルズ:アンガス・マクファデン、トミー・クリックショー:ビル・マレー、ラグランジェ伯爵夫人:ヴァネッサ・レッドグレイヴ他
2000年10月7日より恵比寿ガーデン・シネマにて公開中。
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