マスターの自由自在(2017年10月9日イベント・レポート)


2007年からカフェ営業を始めていろいろなライブやイベント、落語会を行ってきましたが、10周年となった2017年にカフェのマスター自らが企画・出演するイベントを10月9日の体育の日に行いました。その日は奇しくもジョン・レノンの誕生日ということもあって記念すべき一日となったので、そのログを残しておこうと思ってこのコーナーにリンクさせてもらいました。正確な記録ではなく、マスターの思い入れ、印象の強いレポートなりますので、差し引いてご覧下さい。


先ずどうしてカフェのマスターがしゃしゃり出て個人イベントなどを企画しようと思ったかのいきさつを述べておきます。このイベントを行う一ヶ月前の9月9日に「ようこ」という名前の女の子が初めてのライブをしたいと言ってやってきたので、やれ!やれ!と言ってけしかけやったところ、何と19人の集客で盛り上がって驚いたということがありました。人にやれ!やれ!と言っておいて自分がやらないのはファエではない、と思い10周年で新しいことをやろうと思っていた矢先だったので勇気を振り絞って初イベントを行うことを決めました。

だんだんその日が近づくにつけ、果たしてお客さん、来るのかな、という思いが募りこんな企画やらなければよかったなどとも思いました。それでもここアゲインが大瀧詠一さんがいらしたりして、ナイアガラの聖地のように思われ、そこのマスターもその道の専門家のように思われることが多くなったので、私はナイアガラだけではなく他の分野の興味もあります、というメッセージを伝えたくなって企画したイベントが「マスターの自由自在」というトーク・イベントになりました。
当日のメニューを載せておきますとこのようなものでした。


『この日のプログラム』○深沢七郎 and more、○ジュリアン・グラックand more、○ロバート・アルトマン、休憩(おせんタイム)○エリック・ホッファーand more、○ジャック・ケラー、○今村昌平 and more、番外:アーカイブ・コーナーとして最近アゲインで行われたライブの模様をハイライトで紹介するコーナーを最後に設けました。

先ず自分が高校生から浪人、大学時代に影響を受けた文学(小説)の分野で気になった作家、深沢七郎を紹介することから始めました。その作家の略歴をプリントして配った後、代表作『楢山符節考』から『笛吹川』『東京のプリンスたち』『風流夢譚』(1960)『人間滅亡的人生相談』等を紹介し、特に『人間滅亡的人生相談』という本を1971年当時、学生紛争で刑務所に入った友人に差し入れた「タグ」を見せながら当時の状況を説明しました。また『楢山節考』(1956)が 中央公論新人賞第1回受賞作となったいきさつやその後の問題作『風流夢譚』(1960)の発行が右翼のテロを誘発し、嶋中中央公論社長宅に刃物を持った17歳の青年が夫人、お手伝いさんを襲い、お手伝いさんが刺殺されるという事件を紹介しました。併せて『浅沼稲次郎社会党委員長』の殺害事件や三島由紀夫の割腹自殺といった当時の事件を紹介し、激動の時代を特に若い世代の方々に知ってもらいたいと思いYouTubeの映像を交えながら紹介しました。それと同時に当時の大学生(私、仏文科でした)にとっては小説や同人誌といった関心が一番高い時期だったので、クラスメイトだった阿部くんを呼び込んで「小説を書く」とか「同人誌を発行する」といった行為がどういうものだったかを説明してもらいました。その際、私が当時読んでいた梶井基次郎の作品『檸檬』『路上』『冬の日』や「内向の世代」と呼ばれる作家の古井由吉の作品『先導獣の話』『杳子』『聖』なども紹介しました。次に個人的な体験ですが私が仏文科の卒論で選んだジュリアン・グラックという作家を紹介し、関連のジェラール・ド・ネルヴァルなども紹介させてもらいました。グラックの小説に『半島』という小品があるのですが、『半島』というタイトルはまさに阿部くんたちと一緒に同人誌を出していた時の雑誌名だったので挙げてみました。

次に映画部門として洋画ナンバー・ワンと言って憚らないロバート・アルトマンの『ナッシュビル』という映画を紹介し、小松久さんを呼び入れて一緒にカントリーの聖地、ナッシュヴィルの話しをしました。この作品の特徴は24人の登場人物が均等に描かれていることで出演者の個性といい、そこでかかるカントリー・ソングのバック・ミュージシャンといい、実に語るに多い映画なのでやや長目に紹介させていただきました。実際にこの映画の舞台となる町、ナッシュビルを訪問した時の印象やバッサー・クレメンツというフィドル奏者の話しもさせていただきました。(ついでにもう一本の思い出の映画ゴダールの『気違いピエロ』の一節も話させていただきました。)ここで15分くらいの休憩タイムをいれて恒例の「おせんタイム」にしました。

後半は森井ちゃんがプレゼントしてくれた私の「似顔絵Tシャツ」で登場し、最初に紹介した「ようこ」ちゃんを呼び入れて私が強くライブを進めた際のエピソードを語ってもらいました。後半の紹介アイテムの最初はエリック・ホッファーという湾岸の沖仲仕で独学の哲学者を紹介し、ホッファーに影響を与えた16世紀を代表するフランスの哲学者、ミシェル・ド・モンテーニュの箴言も紹介させていただきました。ホファーと深沢七郎はどこか共通する匂いを感じていたのかもしれません。そしてやや唐突でしたが最近になって夢中になっているミュージカルの世界から最も関心の高いバスビー・バークレーというコレオグラファーのYouTubeを観てもらい知らない人がいたら是非「バスビー・バークレー」で検索してその万華鏡のような映像芸術を鑑賞してください、とお勧めしておきました。
そしてこちらも最近、最もいれこんでいるアメリカの作曲家、ジャック・ケラーの紹介とアルドン・スクリーンジェムスのソング=ライター・チームの紹介からキャロル・キングの名前を出しペット・サウンズの森さんを呼び込んでキャロル・キングのおすすめ新作CD+DVDを紹介してもらいその中からルイズ・ゴーフィンとデュエットしているナンバーをかけてもらいました。『つづれおり:ライヴ・イン・ハイドパーク』は「つづれおり」全曲再現のライヴ映像で早速私も上の店へ行ってこのCD+DVDを購入してしまいました。ジャック・ケラーの話題に戻って私の最も好きな「Beats There A Heart So True / Perry Como 」をオリジナル・シングル盤で紹介し、併せてこの曲を知るきっかけとなったいきさつを2012年9月3日に演奏された野口久和BIG BAG+BREEZEの演奏とともに紹介させていただきました。その後に再演された今年5月7日のMCもちょっと流しました。ジャック・ケラーの映像はYouTubeに上がっているので「Venus In Blue Jeans」と「Run To Him」のところだけ紹介し、「歌はあまりうまくないですね」などとコメントしてしまいました。

そして映画コーナーの最後には今村昌平監督の作品群を紹介し、なかでもとりわけ夢中になった問題作『人間蒸発』の特異性を熱く語ってしまいました。この映画は実際に蒸発した人を探すドキュメンタリー番組にカメラが入るところから始まって、その男性のフィアンセ、ねずみという女性と、一緒に彼を探す取材に協力する露口茂という男優さんに密着してカメラが進行するドキュメンタリー映画だと思って観客は観ているです。しかし、実はこの映画は人探しが目的のドキュメンタリー映画ではなく、「真実とは何か」とか「映画における虚構とは何か」ということを問いかけた実験作だったのです。ずっと行動をともにするうちにこのねずみという女性は段々俳優の露口茂に恋心を抱くようになり、その会話を執拗に隠し撮りし、完成後プライバシー侵害で裁判沙汰になったりした問題作だったのです。ハイライトはこの蒸発した男の婚約者とその姉が密会していたという現場を見たという魚屋さんが現れ、姉と妹が旅館で対決するシーンがラストにあるのですが、これも実際の話しではなく虚構の世界で真実は分からないということを旅館のセットを壊すことによって観る側に真実とは何かを問うきわどい作品なのです。そんな解説をしてこの監督の師匠に当たる川島雄三の作品群を最後に紹介してお開きとしました。丁度当初のテーマで挙げていた3時間で終るというイベントだったのですが、少し時間を残していたので今度落語会をやる予定の柳家吉緑さんを紹介し、続いてよくアゲインに来てくれている関口直人さんも呼び込んで彼が作曲したモコ・ビーバー・オリーブの「海底でうたう唄」も紹介しました。さらに私が歯の治療で罹っている戸越銀座の白田歯科医院の白田さんもいらしていたのでその宣伝もさせていただきました。
最後にアンコールのような形でアゲイン・ライブ・アーカイブ集として「やじろべ'64ライブ」にゲスト出演された寺尾聡さんの演奏シーンもおまけで紹介し、これが一番反応があったように思えました。

という盛り沢山の内容だった3時間でしたが、その後とったアンケートではほとんどの人が「よかった」「面白かった」と言ってくれ沢山の人が来てくれたこととともに大変満足できるイベントとなり、ひとえに参加してくれた方々に感謝、感謝の一日となりました。また機会があれば同じような企画で行いたいと思いますので期待せずにお待ちください。



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