コンサートレポート

怒涛のファン・ファン・ファン・コンサートでした。

GOD ONLY KNOWS BRIAN'S SOUNDS




最近コンサート体験が思わぬ幸運に恵まれ体験記もやや上ずったレビューになりがちでしたが、このジーニアス・アーティストのライヴ体験も私にとっては忘れられないものになることでしょう。前回のヴァン・ダイク・パークスに続いて言葉が感情についていくかどうか自信がないのですが貧しいヴォキャブラリーを動員して何とか表現してみたいと思います。

先ず東京公演の初日の印象から書いてみましょう。
この日は実はあまり体調が整わず、胃のあたりに重い分銅をかかえているような案配で、これは世紀のライヴ体験を前に体が極端に緊張しているためなのかとも思っていました。万全の状態でこの日を迎えたかったのですがいい気分で会場へ乗り込むには至らず、多少不安を抱えたまま会場入りとなりました。

会場に着くと意外と若いフアン層にちょっと肩身の狭い思いを感じつつも、はやる気持ちを押さえながら指定の席を探しました。
実は今回のコンサートではネットで知り合った同好の方々と初めて会う機会が多く、私の隣りにはヤッサンというゴーゴーナイアガラのリアルタイム・リスナーの方が来ているはずでした。まだ五分入りの入場者だったのですぐにヤッサンと分かる人物に挨拶をして初めての面談となりました。日頃のご好意に感謝の意を述べ、雑談に移ると、見慣れた顔の女の子が挨拶しに来てくれました。チカちゃんといってL⇔Rフリークの大学生で、つい最近就職が内定したとの通知をいただいていたのでした。私の席を教えておいたのでわざわざ挨拶をしに来てくれたのです。律義な若者におじさん、感激。
しばし歓談をしているとまた一人、訪ねて来てくれた人がいました。ああ、あなたが松尾さんですか。遥々岩手から泊り込みで上京してきたみちのく太郎さんとの初めての対面となりました。そこへもう一人お声をかけてくれた方がいました。音楽ライターの土橋さんです。土橋さんとは一度、渋谷のハイファイでお会いしているのでお顔は直ぐに分かりましたがメールでたまに会話をしているので昨日会ったような感じでした。いろいろお話ししたかったのですが、立ち話しでままならず、松尾さんともほんの一瞬の対面でした。でも初めてとは思えない気さくな方でした。

そして待つこと30分、やっと開演の合図とともに会場がどよめき立ったのですが始まったのはスクリーンに写し出されたブライアンのビデオ・クリップでした。でもこれがなかなか興味深いものでいろいろな人が出てきてブライアンの音楽を語る構成となっていました。しかしこのビデオが延々30分位続くと、自然と時計を見ている自分に気づく程で実物の登場を今か今かと待ち焦がれているのが正直な胸中でした。

そしていよいよ生バンドの音とともに御大とそのバンドがステージに登場した時は待ちくたびれたことやそれまでの胃の痛みなどが一遍に吹き飛ぶ僥倖を感じました。あれが生きているブライアンなのか。あれが長い間憧れていた天才ミュージシャンでビーチボーイズを実質的に引っ張ってきた張本人なのか。あれが長いブランクと暗黒の闘病生活から復帰して健康な身体に戻ってきた人なのか。様々な思いが駆け巡るスタートでした。

ここからは本来なら1曲目がどういう曲で、バンドの編成はこうでと説明しなければいけないところなのですが、すでにそうしたレポート体制に入ることを忘れてしまったかのような出会いの感覚でした。
私の体は金縛りにでもあったようにこり固まり、まるで積年の宿敵にでも遭遇したような有様で呆然と立ちつくしていました。拍手をすることすら忘れ、というよりこの場の状況を把握するのにやっとでまだ信じられない思いでいっぱいでした。その内よくぞ甦ってくれたという感慨と57歳という高年齢にもかかわらずライブを喜んで続けているミュージシャン魂のようなものに心底感動していました。

曲は既に3曲目の「Don't Worry Baby」が始まっており、やっと右端でギターを弾いているジェフリー・フォスケットに関心を持つことができました。そしてミュージシャンをチェックすると、あれ?ジョー・トーマスがいない?ということに気づきました。今回のバンド・メンバーの中でもキーマンと言われていた彼だけにどういう事情だったのだろうかと思いを巡らせてしまいました。そうこうしていると曲は「In My Room」から「Suffer Girl」へと変わっていき、聴き覚えのあるものがかかる度に、ウォーという歓声がどちらからともなく挙がっていやでもワクワクした気分になっていきます。

因みに私の席は1階の前から18番目の左端で、その位置からはステージの左側のミュージシャンの一部が見えない角度でした。一気に前半のパートを歌い上げ、ジェフリーが「15分間の休憩後またやります!」と言って去っていきやっと我に帰ったという感じでした。

隣りに座っていたヤッサンも実に久し振りのコンサートとブライアンという特別の対象だけに静かに興奮しているようで、誰もがその余韻に酔っているようでした。後半も細かいレポートができない位、没頭してライヴにのめりこんでいました。とにかくこの日は何が何だか分からないままことが進んでいく印象で、いろいろ予備知識を仕入れたり予習をしていったのですが、そんな思いがあまり役に立たない超越した思いにとらわれていました。

でも後半「Lay Down Burden」を静かに歌い上げたのを聴いた時は思わずカールのことに思いをはせてジーンとくるものがありました。そのカールがイントロのビデオの中に出てきていみじくも語った言葉が甦ってきました。「音楽は心を癒してくれるものなんだ。」この含蓄のあるコメントが今、ブライアンのヴォーカルを聴いていてしみじみ実感できる瞬間でした。まさにブライアンは自らの音楽で自らを癒したのでしょう。そして見事な復活をとげ、日本のフアンの前でその素晴らしいコーラスを聴かせてくれている。そんな思いが頭の中を駆け巡り至福感は絶頂に達していました。明日もまたこの場に来てブライアンと同じ時間を共有できることを期待して初日の帰路についたのでした。

続いてコンサート2日目のレポートです。

先ず初日と違った席(1階18列49番)だったので全体が見れて良かったです。
さすがに2日目ともなると落着いて鑑賞することができ、バンドの配置やら、使用楽器、曲の順番などをチェックする余裕も生れました。
ステージ向かって右側から今回急遽バンマス的存在となったジェフリー・フォスケットがそのふくよかな体躯でギターを弾き、その後ろにはワンダー・ミンツのリード・ギターリストとパーカッション担当の2名が位置し、まん中は勿論あのジーニアス御大がエレピの前に座ってミラクル・ヴォーカルを聴かせてくれ、中央やや右側にサックス・プレイヤー、その隣りにスキンヘッド、ベースマン、中央後ろにドラムス、そして左側後ろ手にはキーボードとコーラス担当とコーラスのみの女性を配し、その前、つまりステージ左側にはホーンとギター担当、それとワンダーミンツのキーボード・プレイヤーが欠席のジョー・トーマスに代わってキーボードとビブラフォーンを巧みに演奏するといった編成でした。 つまりバック・ミュージシャン10名を従えての堂々の演奏は例えばペットサウンズからのインストものを2曲演奏するあたりにその意気込みを感じてしまいました。
特に目立ったのがワンダーミンツのメンバーの器用さというか、よくブライアンの意図を理解しての演奏となっていたのにはむしろ驚いてしまった程です。(ジェフリー・フォスケットがそうなのは予想できたのですが、それより若い世代の彼らがあんなにブライアンのサウンドを忠実に表現できるなんて凄いと思いました。)

例によってコンサートが始まる前にビデオ・クリップがかかり、これも落着いてじっくり観ることができました。その中で気になった言葉は故カール・ウィルソンがいみじくも語っていた音楽が癒しになるという言葉でした。その通り、いい音楽は精神を蘇らせてくれるに十分なのだと深く同感してしまいました。有名なセッション・ミュージシャンのハル・ブレインやキャロル・ケイなどのインタビューも興味が持てましたが、マイク・ラヴとブライアンが「Surfer Girl」の創作場所を巡って半分冗談で言い合いするところなどやアル・ジャーデンに鼻をつまませて「California Girls」を歌うブライアンの姿などが印象に残りました。最初の日はこの部分が随分冗長に感じたのですが、2日目はむしろゆっくり観ることができ、このあたりが続けて観るメリットなのかもしれないと思いました。

そしていよいよ始まった生ライヴ。初日同様思わず体を走る寒気のような感動が再び甦って曲順、曲目は初日と全く同じなのですが何度聴いてもありがたい思いでいっぱいでした。今回はブライアンが曲ごとに観客に「みんな立って!」とか「今度は座って聴いて」とか促してくれたので整然と観ることができました。バンドの演奏も初日よりは一段とパワーアップした印象で、乗りがよかったように感じました。特にブライアンのヴォーカルがジェフリー・フォスケットのハイ・トーンに負けておらず、十分に声が出ていたように思えました。昨日もそう思ったのですが、このジェフリーの存在が今回のポイントだったように思えました。そのジェフリー君、「ボクハジェフリー・フォスケットデス」と言ってから各メンバーを紹介するところでも初日はちょっとトチっていましたが、この日はちゃんと全員を紹介でき、最後に「The Great Brian Wilson!」という感動的なアナウンスによって御大が再登場する件りも様になっていました。

ブライアンはマイクをスタンドからはずして踊りながら歌ったり、陽気にサックス奏者にからんだりしながら気分よく歌っているなという印象でした。ミュージシャンで感心したのはワンダーミンツのキーボード奏者で、若い?のにビブラフォーンも難なく扱っていてその実力を感じました。

終った後、別部隊で大挙して押しかけていた会社関係の連中(この方々何とタダでブライアンを観に来ていたのです。)と合流して合評会のようなものになりました。東京国際フォーラムの1階にあるレストランで10人位でああでもない、こうでもないとブライアンの話題で盛り上がりました。この連中、いわゆるおじさん、おばさん世代の方々でしたのであまりコンサートなどを体験したことがなかったようで、その感動も大変ストレートでした。何だか一番オタクのような私がBB5のことやコンサートの内容を解説する形になってしまい、詳しい人が聴いたら分かった口をきいているな、と思われるようなことを話してしまいました。

でもどんな世代の人にもビーチボーイズの音楽は強いインパクトを与えていたようで、今回改めて彼らの影響の凄さを再認識してしまいました。背広姿の観客が多いコンサートでしたがそういった世代を越えて楽しめる音楽が本当のポップスだと思うのですがどんなもんでしょうか。

帰りは車軸を流したような豪雨に遭って、車での帰路だったのですが大変恐い思いをしました。

更にコンサート3日目のレポートです。

さあ、いよいよ最終日のコンサートとなってしまいました。この日も天候は今にも雨が降ってきそうな梅雨空で、湿度は100%に近いようなむっとする陽気でした。もう通い慣れた会場へのアクセスは問題なかったのですが、デモが予定されていたのか警察の車が周辺に止まっていました。
今日は全くの一人で存分に楽しんでやろうと思い、ギリギリに会場入りをしたのですが、席に着く際にチカちゃんにばったり会ってしまいました。彼女も3日間連続で観に来ているのでした。そして席に着くと直ぐに前の方に森さん親子を発見。一応挨拶だけしに出かけていくと、森さんの表情がいつになく輝いており、根っからのBB5フアンの真骨頂を感じてしまいました。お声をかけると直ぐに「今石川さんの後ろの席にブライアンの夫人がいますよ。休憩時間ならサインももらえますよ。」と小声で教えてくれて、一瞬ドキっとしてしまいました。何の気なしに振り返ると、いました、メリンダ夫人が。でも何もせずに自分の席に戻ってしまいました。

さすがに3日目ともなるとどういう進行かよく理解しているので今日はどんなところが違うのかが一番の関心事でした。それとゆっくりイントロ・ビデオも鑑賞でき、余裕のツアー鑑賞となりました。ビデオの中で印象的だったのは昨日も触れたブライアンとマイクとのやりとりや、犬の耳と言われ普通の人に聞き取れない音を感じ取ることのできるブライアンの凄さを語るカールや他の人達のインタビュー等が印象的でした。

そしてビデオ・クリップがクレジットに変ると同時に始まる「The Little Girl I Once Knew」の生演奏。バンドのメンバーも本当に演奏を楽しんでいる様子が伝わってくるようでした。ジョー・トーマスに代わってバンマスの地位についたジェフリー・フォスケットやワンダーミンツの予想以上の演奏力など既に親しい感覚を覚えるサポート・メンバーに安心しきって聴いていました。当のブライアンもリラックスして歌っており、曲の紹介や観客へのメッセージなども違っていてその辺りを楽しんで聞いていました。何かタバコはいけないとか何とかいうコメントを言っていたように思えましたが勘違いでしょうか。この日は前日と違ってブライアンが観客に立ったり座ったりする指示を細かくしないで、成り行きにまかせていました。因みに皆を立たせて演奏したのは「California Girl」から「Do It Again」に続く流れや前半ハイライトの「Surfin' U.S.A」や「Back Home」の個所などで観客も一体となっていたように思えました。

15分の休憩の後も順調に曲をこなしていき、私は気が付いたら一緒に大声で「Help Me Rhonda」や「Be My Baby」等を歌っていました。聴きなれた曲ばかりとはいえ、ビーチボーイズの歌を当のグループの本人と一緒に歌える幸せをかみしめながら思わず声を出してしまいました。その後はもうミーハーと化し、東京ジャイアンツのはっぴを着て登場した後半は最後のステージを満喫していました。ワンダーミンツのリード・ギターリストも浴衣姿で登場し、日本での最後のステージを惜しんでいる様子でした。アンコールも再アンコールもメニュー通りでしたが、全然厭味のない演奏と観客に対する優しい受け答えにすっかり満足して御大の動く様を瞼に焼き付けるのに必死でした。

今回のツアーを東京のみですが通しで体験して私が感じたことはその楽曲の素晴らしさという点でした。最近の「Your Imagination」や「South American」もそうですが昔の名曲の数々がどれをとっても現在の鑑賞に耐える普遍性を持っていると確信しました。特に今回「Good Vibrations」の曲の良さに改めて感心させられてしまいました。というか全体に感じたことですがブライアンの魅力、或いは天才と言われる所以はその曲作りにあるのではないかとつくづく思ってしまいました。「Don't Worry Baby」におけるスペクターへのオマージュ、「Surfer Girl」の完璧さ、「In My Room」のハーモニーの美しさ、「California Girls」の転調の素晴らしさ、「I Get Around」におけるリード・ヴォーカルとコーラスの絶妙の掛け合い、「Kiss Me Baby」に代表されるツボを押さえたバラード性、「Pet Sounds」や「Let's Go Away For A while」を構成するインスト・ナンバーの複雑さ、等々どの曲をとってもブライアンならではの味付けとオリジナリティがあって、創造力の偉大さに驚かざるを得ません。ポール・マッカートニィやポール・サイモンもコンポーザーとして群を抜いていると思うのですが、ブライアンもその作曲センスにおいてこの人の右に出る人はいないのではと思わせる何かを感じてしまいました。そう、ビデオ・クリップの中でも本人が語っていましたが、これは神がブライアンに乗り移って様々な曲を書かせている、彼のカリスマ性とはそんな人並みはずれたクリエティヴィティにあるのではないかと思いました。

「God Only Knows」という曲がいみじくも語っているようにブライアン・ウィルソンの楽曲は正に神のみぞ知るサウンドなのだと思いました。



1999年7月12日、13日、14日PM7:00より
東京国際フォーラムにて



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