広東には300ほどの門派があり、そのうち主なものは五大名家・十三名拳といわれている。洪家拳は五大名家の一つで広東を代表する拳術の一つである。また東南アジアや欧米でも盛んである。

創始者は福建省の茶商人である洪熙官であるという説もあるが、あくまでも伝説であって本当のところは定かでない。また南派の多くの門派は福建少林寺を発祥としているが、福建少林寺自体まだ所在が確認されておらず、伝説上の存在でしかない可能性が強い。

洪家拳で主流となっているのは19世紀末から20世紀初頭に活躍した黄飛鴻−林世栄の流れを汲むものである。黄飛鴻は広東十虎の一人とされる。東京在住の南拳名師劉湘穂師傅の伝える洪家拳もこの流れである。風格は、比較的腰を落として長短の手技と低い蹴りを多用する拳術で、呼吸法や発声法に細かい。また古伝の洪家拳は短打を中心に構成されている。また学習の初期の段階から呼吸法や筋骨の鍛練法を合わせた練功を行うのも特徴である。徒手套路は五行拳、単工伏虎拳、工字伏虎拳、双工伏虎拳、虎鶴双形拳、鉄線拳、五形拳、十形拳などがあり、その他各種武器も伝わっている。

洪家拳の基本功ではさまざまなものが伝わっているが、代表的なものには四平大馬と三展橋とがある。四平大馬は、足を肩幅の2倍ほどに開き、頭平、肩平、脚平、心平の姿勢を長時間保ち続ける練功方法である。初級者に対しては主に脚の筋を延ばし丈夫にする効果が期待され、進歩するにつれ呼吸法や意念を取り入れて気の鍛練となる。三展橋は、腕の部分的な鍛練であり、四平大馬などさまざまな馬歩と併せて行われることが多く、工字伏虎拳や虎鶴双形拳などの套路の前部でも取り入れられている。手首関節、肘関節、肩関節の筋を伸ばす鍛練法である。また、脚に対しては三関(股間関節、膝関節、足首関節の筋の鍛練)、胴体に対しては三盤(頚椎、胸椎、腰椎の筋の鍛練)といった鍛練法もある。

工字伏虎拳、虎鶴双形拳などでは内功および基本的な戦闘技法も学ぶ。虎鶴双形拳は近代になって林世栄が編んだ套路で、古伝の五形拳の虎形と鶴形の動作・技法を取り入れているという説がある。また広東十虎の一人とされる王隠林の伝えた拳術(後の侠家拳、白鶴拳、ラマ拳の3派)の虎形と鶴形の動作・技法を取り入れたという説もある。また佛家拳や蔡李佛拳など他の門派から長橋手の技法(スイングなど腕を長く使う打法)も導入されている。

高級套路とされる三線拳(三展拳)、鉄線拳は洪家拳の真髄と言うべき功法を内包しており、洪家拳を真に習得するためには必須のものである。鉄線拳はやはり広東十虎の一人である、鉄橋三の伝えたものである。


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