年次有給休暇を長期に申請されたら
忙しい時季には休んでほしくないものです。
でも、年次有給休暇は労働者の権利。さあ、どうする?

年次有給休暇は拒否はできない
 近年、従業員が年次有給休暇(以下、年休といいます)を長期に取得するケースが増えてきました。と同時に、繁忙期に休暇を請求され、会社がこれを拒否しようとしたことで従業員との間でトラブルになるケースも増えてきています。
 労働基準法では年休について第39条4項で「労働者の請求する時季に与えなければならない」と規定しています。会社には「事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与える」といういわゆる「時季変更権」しか認められておらず、休暇の請求そのものを拒否することはできません。

時季変更権の実際
 それでは時季変更権が認められる「事業の正常な運営を妨げる場合」とはどのようの場合をいうのでしょうか。一般には「その労働者の担当している業務、所属する部など一定範囲の業務の運営にとって不可欠
であり、代替要員を確保することが困難な状態」とされています。しかし、それでは要員不足にある会社は常に時季変更権を行使でき、いつまでたっても従業員が年休を取得できなくなってしまいます。

時季変更権が認められるのは難しい
 時季変更権をめぐってはいくつか判例がありますが、いずれも会社側にとっては厳しいと思われるものです。裁判所は「できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすること」が必要であり、「使用者としての通常の配慮をすれば(中略)
代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしない(中略)ときは、事業の正常な運営を妨げる場合にあたるということはできない」(弘前電報電話局事件最高裁第二 S62.7.10)との判断をしています。

業務に支障がでるのを覚悟しろ?
 別の裁判では「年休制度が、一面で当然ある程度の業務阻害を伴うものと観念し」て、「これを付与するために使用者が最大の努力をすべきもの」とまで言い切った判決(津山郵便局事件広島高裁岡山支部 S61.12.25)もあります。
 しかしこの判決では「そうした努力にもかかわらず、なお事業運営の必要上休暇を付与し難いときは(中略)時季変更権を行使し得るものであり、このようにして年休の付与と、業務の正常な運営との均衡を」図っていくものであるともいっています。

法律論よりバランス論
 これらの判決の多くは郵便局や旧電電公社のケースであり、そのまま中小企業の現実に当てはめることができるかは疑問のあるところです。実務の上では年休の請求権と時季変更権という法律論だけではなく、「年休の付与と、業務の正常な運営との均衡」というバランス論を活用することになります。
 まず「状況に応じた配慮をする」前提として、長期休暇の請求には相当の期間をおくことが必要です。裁判所でも年休取得が「長期のものであればあるほど、事業の正常な運営に支障を来す蓋然性(可能性)が高くなり(中略)事前の調整を図る必要が生ずる」にもかかわらず調整することなく請求された年休に対して時季変更権を認めています(時事通信社事件東京高裁 H7.11.16)。

就業規則も整備する
 そこで就業規則に年休を長期取得する場合、調整期間が取れるようにその手続きを定める必要があります。(例:「年次有給休暇を○日以上連続して取得しようとするときは、その初日の○日以上前に届け出ること」
 もっとも、手続きに違反したからといってすべての請求に時季変更権を行使することは避け、個別の事情ごとに判断しなければなりません。
 そのために年休取得の理由の確認も必要です。
 本来、年休利用は労働者が自由にできるものであり、権利の濫用となる場合を除いて会社が干渉できるものではありません。しかし、時季変更権を行使するかどうかの判断材料として確認することは許されることですし、その理由によって時季変更権行使を控えることは従業員のモラールへの配慮として必要なことです。実際にあったケースとしては、親族が急病になりその看護のため、遠方に住む恩師の葬儀に出席するためなどの理由で請求された場合、それが突然のものであり、業務に支障がきたすような時季でも会社としては認めています。

退職時には「買い上げ」もできる
 退職時に年次有給休暇を一括請求されたときは、どんなに業務に支障があるときでも退職日を越えて時季変更権を行使できませんので、本人との話し合いで扱いを決めることになります。  この場合は、本人が合意すれば年休残日数の買い上げが認められていますし、1日をいくらで買い上げるかも交渉によって決めることはできます。ただし、就業規則に「退職時には残日数を買い上げる」とあらかじめ定めることは違法ですから、注意してください。

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